イデコ(iDeCo)は「個人型確定拠出年金」の愛称で、老後資産形成のため国の後押しで導入された新しい個人年金制度です。このイデコにはいくつかのメリットがありますが、そのなかでも税制優遇は「イデコ最大のメリット」と言われており、どの記事でも必ず触れられています。
具体的には、掛金を支払ったとき、運用中に利益が出たとき、積立金を受け取るときの3つの局面で優遇措置が用意されています。しかし、税金が少なくなるとは言え、実際にお金が手元に払い戻されるわけではないので、どうもピンと来ないという方も多いのではないでしょうか。
そこで、ここではイデコの節税効果について、シミュレーションを交えながら税金の仕組みとともに詳しく解説していきます。この記事を読んでいただければ、イデコの税メリットがいかに大きいかがお分かりいただけると思います。
⇒「イデコって何?」など、いまさら人に聞けない方はコチラ!
ただし、住民税は自治体の裁量で税率や税額を変更できることになっていますので、住んでいる地域によっては税額が変わることもあります。現在、所得割はほぼ全国で標準税率ですが、均等割は半数以上の道府県で増額されています。正確な税率や均等割額などを知りたい場合は、お住まいの自治体へ確認してください。
住民税のポイントは、前年の所得をもとに課税されるという点です。したがって、新社会人になり前年の所得がない場合は課税されませんが、仕事を辞めて収入がなくなっても前年の所得に対する住民税が徴収されるので注意が必要です。
また、所得額の多い少ないに関係する所得割でも税率は一定であること、さらに所得額に関係なく定額で徴収される均等割があることも住民税ならではのものと言えます。
税金の計算はかなり複雑ですが、詳しい数字は抜きにして、大枠でこれらの仕組みを覚えておくと何かと役に立つと思います。
税金は課税所得が多いほど増えますので、反対に所得控除の金額が多ければ多いほど税額は少なくなります。そして、所得税は基本的に「課税所得×税率」で計算されますので、「1年分の掛金合計額×税率」分が節税できることになります。
具体的な例で見てみましょう。たとえば、前章で登場したAさんが毎月2万円をイデコで積み立てると、Aさんの所得税率は10%が適用されるので、年間24万円の掛金に対して24,000円の税制優遇を受けられます(復興特別所得税は考慮していません)。
シンプルに、所得税率が倍になれば節税効果も倍になります。また、掛金を倍にすれば節税効果も倍になります。今は収入が少なく税率が低いという方でも、将来的に収入が増えて税率が上がるとともに掛金を増額していくと、節税メリットは徐々に大きくなっていきます。
住民税の節税効果も基本的には所得税と同じ仕組みで、やはりイデコの掛金全額を差し引くことができる「小規模企業共済等掛金控除」が所得控除として用意されています。
前章でご説明したように、住民税には前年の所得額に応じた「所得割」と定額の「均等割」がありますが、均等割は所得税計算式の「控除額」と同じように固定額で節税効果に影響しないため、所得割の税率で節約できる税額が決まります。そして、所得割の税率は所得額にかかわらず10%ですので、節税効果は「1年分の掛金合計額×10%」となります(お住まいの地域や税額控除などにより多少変わるケースがあります)。
運用期間が短いうちは差額がわずかですが、10年を超えてくると複利効果がハッキリと現れ、非課税メリットは雪だるま式に大きくなっていきます。
このような差が出てくるのは、運用益が非課税の場合には、2か月目以降には元本自体が税金の分だけ多くなっているためです。長期投資による複利効果は絶大な力を持っていることがお分かりいただけると思います。
ただし、この差額は運用する商品の利回りによって変わってきます。利回りが高くなれば差額はもっと大きくなり、低ければ小さくなります。また、運用益が出なければ、この非課税メリットの恩恵は受けられません。
なお、掛金拠出時の税制優遇は所得税・住民税を払っていない方にとってはメリットにはなりませんが、こちらの運用時の税制優遇はイデコを利用しているすべての方のメリットだと言えます。
ちなみに、イデコと同じように、NISA(少額投資非課税制度)や積立NISAでも運用益が非課税になりますが、利益が出ている状態で売却しないと税メリットを得られません。
一見すると複雑なようですが、ようするに、掛金を拠出した期間が①2年までは80万円、②以後20年までは1年ごとに40万円ずつ、③21年以降は1年ごとに70万円ずつ控除額が増えていく、ということです。
そして、この控除額を超えた部分の1/2が「退職所得」の扱いとなり所得税の課税対象となります(税率は1-1の「所得税の税額表」を参照してください)。逆に言えば、イデコの一時金が退職所得控除額以下であれば、全額を非課税で受け取れるということです。
⇒イデコには税制優遇以外にもさまざまなメリットが!?
⇒個人年金保険にも税制メリットが!? くわしくはコチラ!
⇒イデコだけじゃない! 老後資金を準備する方法は?
1.まずは税金の仕組みを分かりやすく!
イデコの節税効果にかかわる税金は所得税と住民税です。イデコの強力な税制優遇をより理解していただくために、まずは私たちが納めている税金の仕組みからご説明していきましょう。1-1 同じ収入でも各世帯の事情によって所得税は大きく変わる
所得税は、会社に勤めている方が労働の対価として受け取る給与や賞与、個人事業主が自ら行う事業による収入、個人が不動産や株式などを売ったときの収益、年金受給者が受け取る年金などを対象に、基本的に年単位で課税されます。ただし、収入額そのもの(年収や年商)で税額が決まるわけではありません。 会社に勤めている方の場合、所得税額は次の3ステップで計算されます。- ステップ1:収入金額合計(年収)をもとに給与所得を算出する
- ステップ2:給与所得をもとに課税所得を算出する
- ステップ3:課税所得をもとに所得税額を算出する
- 給与所得=給与・賞与等の収入金額合計(年収)-給与所得控除
- 例)年収600万円のAさんの場合:給与所得控除は〔年収×20%+44万円〕
- 給与所得=600万円-(600万円×20%+44万円)=436万円
- 課税所得=給与所得-各種所得控除
- 例)Aさんの社会保険料控除60万円、配偶者控除38万円、扶養控除38万円、生命保険料控除10万円とすると、基礎控除48万円を合わせて控除額合計で194万円
- 課税所得=436万円-194万円=242万円
- 所得税=課税所得×税率-控除額
- 例)Aさんの場合:課税所得が242万円なので所得税率は10%で算出
- 所得税=242万円×10%-9.75万円=14.45万円
1-2 住民税は前年の所得額に応じて翌年に徴収される
イデコの節税効果にかかわるもう1つの税金が住民税です。 住民税は「道府県民税」(東京都は都民税)と「市町村民税」(東京23区は特別区民税)の2つを合わせたものです。両方とも、前年の1月から12月までの所得に応じて金額が変わる「所得割」と、一律に定額で課される「均等割」に分かれています。 所得割は、所得税のときと同じように、所得金額から各種所得控除を差し引いた課税所得額に税率をかけて計算されます。ただし、前年の所得が対象になる、いくつかの所得控除額が微妙に異なる、ここからさらに「調整控除」という税額控除を差し引いて最終的な税額が算出される、といった点が所得税と違うところです。 給与所得や事業所得など、一般的な所得についての税率は、道府県民税が4%、市町村民税が6%で、合計10%に固定されています。 均等割は、前年の所得金額に関係なく、道府県民税1,000円、市町村民税3,000円が標準税率とされています。そして、こちらも復興・防災対策として、平成26年から10年間は道府県民税・市町村民税ともに500円ずつ増額され、合わせて5,000円となっています(所得要件によっては均等割も免除になる場合があります)。
ただし、住民税は自治体の裁量で税率や税額を変更できることになっていますので、住んでいる地域によっては税額が変わることもあります。現在、所得割はほぼ全国で標準税率ですが、均等割は半数以上の道府県で増額されています。正確な税率や均等割額などを知りたい場合は、お住まいの自治体へ確認してください。
住民税のポイントは、前年の所得をもとに課税されるという点です。したがって、新社会人になり前年の所得がない場合は課税されませんが、仕事を辞めて収入がなくなっても前年の所得に対する住民税が徴収されるので注意が必要です。
また、所得額の多い少ないに関係する所得割でも税率は一定であること、さらに所得額に関係なく定額で徴収される均等割があることも住民税ならではのものと言えます。
税金の計算はかなり複雑ですが、詳しい数字は抜きにして、大枠でこれらの仕組みを覚えておくと何かと役に立つと思います。
2.イデコには3つの局面で税制優遇が用意されている
前置きが長くなりましたが、ここからがイデコの税メリットの話になります。 「イデコは効率的な資産形成ができる」と言われているのは、掛金を支払ったとき、運用中に利益が出たとき、積立金を受け取るときの3つの局面で、それぞれ税制優遇置が用意されているからです。順番に見ていきましょう。2-1 イデコの税メリット~掛金は全額所得控除になる
イデコでは毎月積み立てていくお金のことを「掛金」と呼び、掛金を支払うことを「拠出」と言います。まずは、毎月の掛金を拠出するときの節税効果からお伝えしていきます。 前章では、税金を計算するときに所得から差し引きできる「所得控除」が14種類あることをご説明しました。このうちの1つに「小規模企業共済等掛金控除」というものがあり、イデコの掛金として支払った全額が、この「小規模企業共済等掛金控除」の対象になるのです。言い方を変えれば、イデコの掛金は全額が「所得税の課税対象額」から除外されるということです。
税金は課税所得が多いほど増えますので、反対に所得控除の金額が多ければ多いほど税額は少なくなります。そして、所得税は基本的に「課税所得×税率」で計算されますので、「1年分の掛金合計額×税率」分が節税できることになります。
具体的な例で見てみましょう。たとえば、前章で登場したAさんが毎月2万円をイデコで積み立てると、Aさんの所得税率は10%が適用されるので、年間24万円の掛金に対して24,000円の税制優遇を受けられます(復興特別所得税は考慮していません)。
- 例)Aさんの場合:
- 所得税=242万円×10%-9.75万円=14.45万円
- Aさんがイデコへ毎月2万円拠出した場合:
- 所得税=(242万円-2万円×12か月)×10%-9.75万円=12.05万円
- 所得税節税額=14.45万円-12.05万円=2.4万円
シンプルに、所得税率が倍になれば節税効果も倍になります。また、掛金を倍にすれば節税効果も倍になります。今は収入が少なく税率が低いという方でも、将来的に収入が増えて税率が上がるとともに掛金を増額していくと、節税メリットは徐々に大きくなっていきます。
住民税の節税効果も基本的には所得税と同じ仕組みで、やはりイデコの掛金全額を差し引くことができる「小規模企業共済等掛金控除」が所得控除として用意されています。
前章でご説明したように、住民税には前年の所得額に応じた「所得割」と定額の「均等割」がありますが、均等割は所得税計算式の「控除額」と同じように固定額で節税効果に影響しないため、所得割の税率で節約できる税額が決まります。そして、所得割の税率は所得額にかかわらず10%ですので、節税効果は「1年分の掛金合計額×10%」となります(お住まいの地域や税額控除などにより多少変わるケースがあります)。
- 例)Aさんがイデコへ毎月2万円拠出した場合:
- 住民税節税額=(2万円×12か月)×10%=2.4万円
- 例)Aさんが現在30歳で、60歳まで所得税率が変わらず同じ掛金額でイデコを続けた場合:
- (所得税分2.4万円+住民税分2.4万円)×30年=144万円の節税効果
2-2 イデコの税メリット~運用で利益が出ても課税されない
続いては、イデコで積み立てた資産を運用しているときの税メリットです。 ふつう預貯金の利息からは税金が引かれています。具体的には、利息の20.315%にあたる金額が税金として差し引かれたのち、口座に振り込まれます。税金の内訳は、所得税15%+復興特別所得税0.315%(所得税の2.1%)+住民税5%=20.315%です。- 例)利率0.1%の定期預金100万円の場合
- 利息=100万円×0.1%=1,000円
- 所得税=1,000円×15.315%=153円
- 住民税=1,000円×5%=50円
- 受取利息=1,000円-153円-50円=797円 ⇒ 実質0.0797%の利回り
運用期間が短いうちは差額がわずかですが、10年を超えてくると複利効果がハッキリと現れ、非課税メリットは雪だるま式に大きくなっていきます。
このような差が出てくるのは、運用益が非課税の場合には、2か月目以降には元本自体が税金の分だけ多くなっているためです。長期投資による複利効果は絶大な力を持っていることがお分かりいただけると思います。
ただし、この差額は運用する商品の利回りによって変わってきます。利回りが高くなれば差額はもっと大きくなり、低ければ小さくなります。また、運用益が出なければ、この非課税メリットの恩恵は受けられません。
なお、掛金拠出時の税制優遇は所得税・住民税を払っていない方にとってはメリットにはなりませんが、こちらの運用時の税制優遇はイデコを利用しているすべての方のメリットだと言えます。
ちなみに、イデコと同じように、NISA(少額投資非課税制度)や積立NISAでも運用益が非課税になりますが、利益が出ている状態で売却しないと税メリットを得られません。
2-3 イデコの税メリット~積立金の受け取り方によっては非課税に
最後に、積み立てた年金資産を受け取るときの税制優遇についてご説明します。 イデコで積み立てた資産は原則60歳以降に受け取れます。受け取り方法は、5~20年の期間で分割して受け取る年金形式と、70歳(2022年4月からは75歳)までの間に一度に全額受け取る一時金形式があります。また、利用する金融機関によっては、年金と一時金との併用が選べるケースもあります。そして、どちらの受け取り方法にも税制優遇が用意されています。 ●年金で受け取る場合~「公的年金等控除」が適用される 年金として受け取る場合は、「給与所得控除」と同じように、受け取り金額から一定の金額を差し引くことができる「公的年金等控除」が適用されます。 この税制優遇によって、受け取る時点の年齢が65歳未満の場合は60万円までを、65歳以上の場合は110万円までを非課税で受け取ることができます(他の合計所得金額が1,000万円以下の場合)。60万円あるいは110万円を超えた部分は「雑所得」の扱いとなり、受け取り額に応じて一定の金額が課税対象となります。 ここで注意していただきたいのは、イデコを年金で受け取る場合、税務上は国民年金や厚生年金などの公的年金と合算されることです。つまり、65歳未満の方が公的年金だけで60万円を、65歳以上の方は110万円を超える場合は、イデコで受け取る年金は課税の対象となります。 ご自身で受け取れる公的年金の支給開始年齢と金額を調べておき、イデコを非課税の枠内で受け取れるかどうかを事前に検討しておいたほうが良いでしょう。 ●一時金で受け取る場合~「退職所得控除」が適用される 一時金で受け取る場合は、企業などから受け取る退職金と同じ扱いになります。そして、こちらでも受け取り金額から一定の金額を差し引くことができる「退職所得控除」が適用されます。 退職所得控除の金額は、退職金では勤続年数をもとに計算されますが、イデコでは掛金を拠出した年数をもとに計算されます。その計算方法は以下のとおりです。
一見すると複雑なようですが、ようするに、掛金を拠出した期間が①2年までは80万円、②以後20年までは1年ごとに40万円ずつ、③21年以降は1年ごとに70万円ずつ控除額が増えていく、ということです。
そして、この控除額を超えた部分の1/2が「退職所得」の扱いとなり所得税の課税対象となります(税率は1-1の「所得税の税額表」を参照してください)。逆に言えば、イデコの一時金が退職所得控除額以下であれば、全額を非課税で受け取れるということです。
-
- 退職所得金額=(受け取り金額-退職所得控除額)×1/2
-
- 例)イデコ受け取り額:700万円 掛金拠出期間:15年
- 退職所得控除=40万円×15年=600万円
- 退職所得=(700万円-600万円)×1/2=50万円
- 所得税額=50万円×5%=2.5万円(これに復興特別所得税が上乗せされます)
- 例)イデコ受け取り額:1,500万円 掛金拠出期間:38年
- 退職所得控除=800万円+70万円×(38年-20年)=2,060万円
- ∴退職所得<退職所得控除なので全額非課税
⇒イデコには税制優遇以外にもさまざまなメリットが!?
⇒個人年金保険にも税制メリットが!? くわしくはコチラ!
⇒イデコだけじゃない! 老後資金を準備する方法は?


