「老後の生活費が公的年金だけでは心配」という理由から、生命保険会社が提供する個人年金保険への加入を考えている人は多いかと思います。個人年金保険に加入すると税制上の優遇措置を利用することができ、ほかの金融商品とは違うメリットがあると多くの保険会社もうたっています。
しかし、一口に「個人年金」といっても、保険料の納付方法や年金を受け取れる期間、金額などその内容はさまざまです。「個人年金に加入すると税制上のメリットがある」と言われても、具体的にどんなときにどんなメリットがあるのかはよく分からない、という方が大半なのではないでしょうか。
超高齢社会となった現在では、公的年金のほかに個人でも老後の備えをしておくことはますます重要性を増しています。自分にぴったりの老後資産作りの手助けとなるように、ここでは個人年金保険と税制について、そのメリットや注意すべき点をお話ししていきたいと思います。
●新制度(2012年1月1日以降に契約したものに適用)
新制度では、生命保険料控除は 「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3種類になりました。それぞれ1年間の保険料支払い総額に応じて、所得税では最大4万円、住民税では最大2万8000円の控除が受けられます。ただし、住民税の控除は3種類の合計で7万円までです(*5)。
なお、新生命保険料・旧生命保険料の両方または新個人年金保険料・旧個人年金保険料の両方を支払っている場合で、両方について控除の適用を受けるときは、所得税の控除額は4万円が上限となります。ただし、旧生命保険料/旧個人年金保険料の契約だけで控除額が4万円を超える場合は、5万円まで控除を受けることができます(*5)。
仮に新制度で毎月1万円の保険料を支払うタイプの個人年金に加入したとすると、年間の保険料は12万円なので、所得税で4万円、住民税で2万8000円の所得控除を毎年受けられることになります。支払い期間が20年だとすれば、所得税で80万円、住民税で56万円なので合計136万円。結構大きな額だと言えるのではないでしょうか。
1. 個人年金における税制上のメリットとは?
1-1 生命保険料控除を受けられる
個人年金保険の税制上のメリットは、大きく保険料を支払う時と年金を受け取る時2つの場面に分けられます。まずは、保険料を支払う時に利用できる「生命保険料控除」からお話ししたいと思います。 私たちが納める税金のうち、主なものは所得税と住民税です。 所得税は、「累進課税制度」により、所得が増えれば税率も高くなる仕組みになっています。住民税は、前年の所得金額に応じて課税する「所得割」(税率は一定)と、所得金額にかかわらず一定金額を課税する「均等割」の合算という仕組みです。いずれも収入が多い人ほどたくさんの税金を納めることになります。 しかし、これらの税金は単純に収入に対してかかってくるわけではありません。実際に税金がかかってくるのは「課税所得」と呼ばれ、収入からその収入を生み出すのにかかった「経費」と、「所得控除」と呼ばれる各種項目の合計値を引いた額になります。 このうち「経費」とは、自営業者なら事業所の家賃や水道光熱費、通信費など、サラリーマンなら「給与所得控除」分や「特定支出控除(*1)」分です。 一方「所得控除」とは、個人の事情を汲んで課税額を調整しようとするもので、医療費がたくさんかかった場合(医療費控除)、寄付をした場合(寄附金控除)、扶養家族がいる場合(扶養控除)など、一定の場合にかかったお金を所得から引くことを認められているものです。そしてその中の1つに「生命保険料控除」があります。 個人年金の保険料は、この「生命保険料控除」の対象となるので、保険料の支払額に応じて控除を受けることができます。その結果、課税所得が小さくなり、節税に繋がるというわけです。1-2 変額年金で使える相続税の非課税枠
では次に、年金を受け取る場面に移っていきましょう。 まず、前提として押さえておかなければいけないことですが、個人年金の受け取りには基本的に税金がかかります(基礎控除や特別控除などを利用した結果として税金がかからない場合もあります)。契約形態により税金の種類とその額は変わりますが、「所得税」「贈与税」「相続税」のどれかを支払うことになります。 しかし、「変額個人年金」タイプの個人年金では、生命保険の一種であることから、生命保険全般に適用される死亡保険金に対する相続税の非課税枠を利用することができます。 具体的には、個人年金の運用期間中に契約者である被保険者が亡くなり、相続人に死亡保険金が支払われる場合、500万円×法定相続人数までの金額が非課税になります(*2)。ただし、年金の受け取り期間中に被保険者が亡くなった場合は、非課税枠は利用できないので注意が必要です。 ※変額個人年金……将来の年金額が積み立てた保険料(年金原資)の運用成績により変動するタイプの個人年金。最初にある程度まとまった資金を保険料として払うのが一般的で、契約者自身が運用する金融商品を選択します。運用の結果には契約者が責任を持ちます。1-3 変額年金の運用収益に対する課税でも優遇
また、変額個人年金にはもう1つ、ファンドの入れ替えの際に運用収益に対する課税がないという税制上のメリットもあります。少し分かりにくいのでもう少し具体的に説明します。 変額個人年金は、運用実績によって将来受け取る年金の金額が変動する商品です。具体的には保険会社が用意したリストから契約者が投資先のファンドを選び、どのファンドで資金の何%を運用するかという、投資バスケットを作ります。ファンドには国内債券型、国内株式型、海外株式型などさまざまな種類があり、この組み合わせで運用成績が決まるわけです。 投資先のファンドを変更することを「スイッチング」といいます。変額個人年金と仕組みが似ていると言われる投資信託などでは、このスイッチングを行うたびに「信託財産留保額」という費用がかかるケースがあり、また利益が出ていた場合には利益額に対して20.315%の税金がかかります(*3)。 これに対して変額個人年金では、スイッチング時の費用はかからない(通常は年間での回数制限あり)うえ、スイッチング等により発生した利益から税金が差し引かれることがなく、全額新しいファンドに再投資することができます。その分、より複利の効果を享受できるので、長期の運用に有利と言えます。2. もう少し詳しく、生命保険料控除の中身について
2-1 個人年金は「個人年金保険料控除」
3つの税制上のメリットを説明しましたが、中でも「個人年金保険には節税効果がある」といわれる所以は、はじめに挙げた生命保険料控除を受けられることにあると言えるでしょう。これについて、もう少し詳しくお話ししてみたいと思います。 生命保険料控除はさらに3つに分けられており、それぞれ対象となる保険が決まっています。- ・一般生命保険料控除 … 死亡保険など
- ・介護医療保険料控除 … 医療保険、女性保険、がん保険、介護保険など
- ・個人年金保険料控除 … 個人年金保険
2-2 控除の条件
これだけ見ると、個人年金保険はすべて個人年金保険料控除の対象になるように見えますが、そうではありません。対象となるには、次の4つの条件を満たしていることが必要です(*4)。- ・年金受取人が契約者またはその配偶者のいずれかであること
- ・年金受取人は被保険者と同一人であること
- ・保険料払込期間が10年以上であること(一時払は対象外)
- ・年金の種類が確定年金や有期年金の場合、年金受取開始が60歳以降で、かつ年金受取期間が10年以上であること
2-3 控除額はどのぐらい?
では、いよいよ本題。「一体どれぐらい控除されるのか?」を見ていきたいと思います。 実は少々ややこしいことに生命保険料控除制度は一度改正されており、現在は2011年12月31日までの契約に適用される「旧制度」と2012年1月1日以降の契約に適用される「新制度」の2本立てとなっています。それぞれについて詳しく紹介していきましょう。 ●旧制度(2011年12月31日までに契約したものに適用) 旧制度では、生命保険料控除は 「一般生命保険料控除」「個人年金保険料控除」の2種類に分かれ、それぞれ1年間(1月1日~12月31日)までの保険料支払い総額に応じて、所得税では最大5万円、住民税では最大3万5000円の控除が受けられます(*5)。旧制度での生命保険料控除 | ||||
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所得税 | 住民税 | |||
区分 | 年間払込保険料額 | 控除される金額 | 年間払込保険料額 | 控除される金額 |
一般生命保険料・ 個人年金保険料 (税制適格特約付加) | 25,000円以下 | 払込保険料全額 | 15,000円以下 | 払込保険料全額 |
25,000円超 50,000円以下 | (払込保険料×1/2) +12,500円 | 15,000円超 40,000円以下 | (払込保険料×1/2) +7,500円 | |
50,000円超 100,000円以下 | (払込保険料×1/4) +25,000円 | 40,000円超 70,000円以下 | (払込保険料×1/4) +17,500円 | |
100,000円超 | 一律50,000円 | 70,000円超 | 一律35,000円 |
新制度での生命保険料控除 | ||||
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所得税 | 住民税 | |||
区分 | 年間払込保険料額 | 控除される金額 | 年間払込保険料額 | 控除される金額 |
一般生命保険料・ 介護医療保険料・ 個人年金保険料 (税制適格特約付加) | 20,000円以下 | 払込保険料全額 | 12,000円以下 | 払込保険料全額 |
20,000円超 40,000円以下 | (払込保険料×1/2) +10,000円 | 12,000円超 32,000円以下 | (払込保険料×1/2) +6,000円 | |
40,000円超 80,000円以下 | (払込保険料×1/4) +20,000円 | 32,000円超 56,000円以下 | (払込保険料×1/4) +14,000円 | |
80,000円超 | 一律40,000円 | 56,000円超 | 一律28,000円 |
2-4 控除を受けるのに必要な手続き
このようにお得な控除制度ですが、何もしないで利用できるわけではありません。医療費や扶養などほかの控除と同じように、控除を受けたいと思う本人が手続きをする必要があります。 といっても、一般のサラリーマンの場合はそう手間はかかりません。個人年金に加入すると10月~年末頃に生命保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」という書類を勤め先に提出し、年末調整で控除を受ければよいだけです。保険料を給料からの天引きにしている場合は、証明書の提出も必要ありません。 自営業者の場合は、翌年の2月16日~3月15日に行う確定申告に「生命保険料控除証明書」を添えて提出することになります。申告書に記入するために自分で控除額を計算する手間はかかりますが、税務署に用意してある確定申告の手引きに沿って数字を書き込んでいけば、特別な知識がなくても計算できるようになっています。3. メリットを生かすために、知っておきたい税制上の注意点
3-1 年金の受取時には税金がかかる
ここまでは、ずっと個人年金の税制上の優遇制度、特に保険料を支払うことで受けられる生命保険料控除についてお話ししてきました。そこで最後に、このメリットを十分に生かすためにぜひ知っておきたい税制上の注意点もご紹介したいと思います。 特に注意したいのは、死亡給付金の非課税枠のところで少しだけ触れましたが、「基本的に年金の受け取りの際には税金がかかってくる」ということです。かかってくる税金の種類は契約者と年金受取人の関係によって、大きく次の2パターンに分かれます。 ●契約者=年金受取人の場合 例えば夫婦2人暮らしで個人年金の契約者は夫、年金の受取人も夫という場合です。この場合、毎月受け取る年金は「雑所得」に分類され、所得税・住民税・復興特別所得税の課税対象となります(*6)。といっても受け取った年金全てにかかるわけではなく、課税対象となるのは「1年間の年金受取総額-必要経費」の部分だけです。 例えば、- 月額保険料:1万円
- 保険料納付期間:30年
- 1年間の納付保険料総額:12万円
- 30年間の納付保険料総額:360万円
- 年金受給期間:10年
- 1年間の年金受給額:43万円
- ・解約返戻金の額
- ・年金の代わりに一時金として受け取った場合の金額(一時金)
- ・予定利率(保険会社が契約者に約束する運用利回り)をもとに計算する金額。以下の計算式によって求められます。
- 予定利率の受取年間分の複利年金原価率×毎年の年金額
- 保険料負担者:夫 年金受取人:妻
- 解約返戻金額:450万円
- 一時金:480万円
- 予定利率1.5%をもとに計算した金額:478万円
3-2 配偶者控除を受けられない可能性も
もう1つ、忘れがちなのが、年金の受け取りにより配偶者控除が受けられなくなる可能性です。 配偶者控除というのは医療費控除や生命保険料控除などと同様、所得控除の一種。- ・生計を共にしていること
- ・合計所得が48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)であること
まとめ:税金を考えた、慎重な商品選びを
ここまで、税制上のメリットとして- ・生命保険料控除が受けられること
- ・その内容は主に新旧2タイプの個人年金保険料控除であること
- ・控除を受けるには手続きが必要であること
- ・変額年金タイプでは死亡給付金非課税枠も使えること
- ・変額年金タイプは投資信託に比べて税制の優遇があり、長期運用に有利なこと
- ・年金の受け取りには税金がかかること
- ・年金の受け取りによって、配偶者控除や配偶者特別控除が受けられない可能性があること