介護保険は本当に必要??~民間の介護保険の必要性について~

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保険の基礎知識
介護保険は本当に必要??~民間の介護保険の必要性について~

現在、日本は超高齢化社会に突入しています。

たとえば、高額所得者の介護サービス費用の自己負担額が3割になったり、特別養護老人ホームへの入居のハードルが高くなったり(要介護3以上)といった制度改正の話題は記憶に新しいのではないでしょうか。そうした一連の動きを見て、「公的介護保険制度に頼るだけではなく自分自身でも介護への備えをしなくては…」と不安を募らせていらっしゃる方も多いように思います。

そこで、自分自身で介護に備える方法の1つとして真っ先に思い浮かぶのが、民間の介護保険です。確かに民間の介護保険は、「介護一時金」「介護年金」といった万が一のときに、とても助かる保障を備えているように見えます。

ですが、その一方で民間の介護保険の必要性に疑問を唱える声も上がっています。それらには大きく分けて2つのパターンがあります。

  • ・そもそも介護状態になることなんてあまり無いのではないか?
  • ・介護状態になったとしても、公的介護保険制度があるので実費用はかからないのではないか?

もしも「介護状態に陥ることがほとんど無く」かつ「介護状態になったとしても公的介護保険制度で十分に費用をまかなえる」のであれば、民間の介護保険が必要となる余地はありませんね。

では、実際はどうなのでしょうか?

そこで、ここでは民間の介護保険が必要かどうか、官公庁や生命保険文化センターなどのデータをもとに分かりやすく検証していきます。是非この記事を、あなたには民間の介護保険が必要なのかどうか、判断する目安としてお役立て頂ければ幸いです。

1.「介護状態になる確率が低ければ介護保険は不要」なの?

介護保険は、その名前が示す通り「介護にかかる費用」に対して備える保険です。公的介護保険制度にしても、民間の介護保険にしても、運営しているのが市区町村か民間の保険事業者かという違いはありますが、介護にかかる費用への備えという目的は変わりません。

だとすると、そもそも介護が必要な状態にならなければ、民間の介護保険はもちろん、公的介護保険制度さえ必要はなくなります。特に健康な方ほど、そのように考えられている方が多いのではないかと思います。

では、私たちにとって介護はどの程度の確率で降りかかってくるリスクなのでしょうか?

1-1 どのくらいの人が、介護が必要になるの?

要支援・要介護は、市町村が介護を必要とする方を身体の状態などに応じて区分するための公的介護保険制度の基準です。その等級は要支援1~要介護5までの7段階に分かれており、どこに割り振られるかによって少ない自己負担で受けられる介護サービス費用の上限額などが設定されます。

言いかえれば、要支援・要介護として認定された方=介護が必要な方ということになります。厚生労働省の調査(*1)では、要支援・要介護認定者数の推移を追っているので、それをもとにどのくらいの人が介護を必要としているのか見てみましょう。

この調査によれば、要支援・要介護認定を受けている方は、65歳以上では約18.4%、75歳以上では約31.9%という結果になっています。少し視点を変えると、介護は65歳以上で約5.4人に1人、75歳以上は約3.1人に1人が必要になると言えそうです。

1-2 介護が必要になる原因は?

次に「介護が必要になった原因」から考えてみましょう。

たとえば、介護が必要になった原因のうち、ほとんどが生活習慣病などであれば、適度な運動とバランスの良い食事、そして規則正しい生活を心がけることで、十分に介護のリスクを回避することができるように思えます。

しかしながら、厚生労働省の調査(*2)を見ると、「認知症」を始めとして「高齢による衰弱」「骨折・転倒」など、介護が必要になる原因は、必ずしも普段の生活習慣と深く関わりのないものが約40%以上を占めています。生活習慣病の予防に関わらず、介護が必要になる可能性も少なくないと言えそうです。

介護が必要となった主な原因

1-3 要支援・要介護認定者数と平均寿命・健康寿命から考えると?

続いて、もう少し大きな視点から、要支援・要介護認定者数や平均寿命・健康寿命といった全体的な傾向に注目してみましょう。

日本は世界屈指の長寿国家の1つです。世界的に見て、平均寿命は常に高い水準を保っており、医療技術も日々進歩しています。ここから推察すると、仮に今は介護のリスクが高かったとしても、徐々に介護を必要とするような状況が減り、介護保険の必要性は薄くなっていくのではないかという疑問が残ります。

ですが、厚生労働省の調査(*3)を参照すると、平成12年度から令和元年度にかけての20年間で要支援・要介護認定者数は約2.6倍に膨らんでいます。具体的な認定者数で言えば、平成12年度が約256万人であったのに対して、令和元年度は約669万人にまで増加しています。

この20年間の要支援・要介護認定者の推移を見ると、むしろ今後、介護のリスクはますます高まってくると言えるでしょう。

要支援・要介護認定者の推移

また、確かに日本の平均寿命は高い推移を示していますが、介護について考えるときにより重要な指標になるのが「健康寿命」と「健康寿命と平均寿命の差」です。

健康寿命とは、「健康上の問題がない状態で自立して日常生活を送れる期間」のことを指しています。「健康上の問題」のなかには、もちろん医療や介護も含まれています。対して平均寿命とは、文字通り「人が生まれてから亡くなるまでの期間」です。

つまり、

■平均寿命-健康寿命=介護が必要になる可能性が高い期間

となります。

これを踏まえて厚生労働省の調査(*4)を参考にすると、それぞれ男女別で「介護が必要になる可能性が高い期間」は、下記の図のようになります。いずれにしても平均寿命が長いからと言って、一概に介護状態になるリスクが低いとは判断できないと言えそうです。

健康寿命と平均寿命の差

2.介護状態になったとしても公的介護保険制度があるから費用はかからない!?

前章では厚生労働省のデータをもとに、私たちにとって介護が他人事ではないということを確認してきました。介護をする側/介護をされる側のどちらとして関わるかは分かりませんが、いずれにせよ一生を介護と無縁で過ごすことのほうが珍しいとさえ言えそうです。だとすれば、介護に対する何かしらの備えは必要だということになります。

そこで次に考えたいのは、「介護への備えは公的介護保険制度だけで十分なのか?」という点です。

2-1 公的介護保険制度でカバーできる部分と、カバーできない部分

私たちが介護を必要としたときに、最初に頼ることになるのは公的介護保険制度です。

公的介護保険制度は、「社会全体で介護を支え合う」というコンセンプトのもと2000年に発足しました。日本では、40歳以上になると公的介護保険制度への加入が義務付けられています。加入者が介護を必要とする状態になった(要支援・要介護認定を受けた)場合、公的介護保険制度から保障を受けることができます(ただし40歳~64歳の方は「特定疾病」を原因とする場合のみ)。

まずは、もし介護状態になったときに公的介護保険制度でカバーできる範囲と、カバーできない範囲を明確にしましょう。そのうえで実際、介護費用にどのくらい要するのかを検討していきます。

2-1-1 公的介護保険制度でカバーしてくれるもの

公的介護保険制度の主な保障内容としては、「介護サービス費用を1割(所得によっては2割または3割)の自己負担で受けられる」、自己負担額が高額になった場合に利用できる「高額介護サービス費制度」「高額介護合算療養費制度」の3つに分けられます。それぞれ何をカバーしてくれるのかを簡単に見ていきましょう。


○介護サービス費用を1割(所得によっては2割または3割)の自己負担で受けられる

私たちは介護が必要になったとき、ヘルパーに自宅まで訪問してもらったり、日帰りで介護施設に通ったり、あるいは介護施設に入所・居住したりといった、さまざまな「介護サービス」を受けることになります。

公的介護保険制度を利用すると、原則的に介護サービス費用の自己負担は1割~3割で良いことになっています。残りの9割~7割は公的介護保険制度からサービス提供者に支払われます。

ただし、それぞれの介護状態の重軽度に応じて、1割~3割の自己負担で利用できる月ごとの上限額が設けられています(*5)。そして、その上限額超えた部分に関しては、全額自己負担になるので注意が必要です。

介護サービスの利用上限額および自己負担額(月額)
出典:厚生労働省「第168回社会保障審議会介護給付費分科会
~資料1 2019年度介護報酬改定の概要」より試算して作成

○高額介護サービス費制度

先述したように、基本的に介護サービス費用の自己負担は1割~3割ですが、その自己負担額でもかなり高額になってしまうこともあります。医療費の「高額療養費制度」と同様に、自己負担額が高額になった場合の軽減措置として「高額介護サービス費制度」が設けられています(*6)。

世帯や個人の収入によって、介護サービス費用の自己負担額にも上限が定められており、それを超えたときには超過分が「高額介護サービス費」として払い戻されます。

高額介護サービス費の自己負担の上限額(月額)
出典:厚生労働省「介護・高齢者福祉~重要なお知らせ~高額介護サービス費の負担限度額が変わります
(周知用リーフレット)」を元に作成

○高額介護合算療養費制度

さらに、同じ世帯で公的医療保険や公的介護保険制度の給付を受けてもなお、1年間の医療費と介護費の自己負担額が高額になったときには、「高額介護合算療養費制度」を利用することができます(*7)。

これは毎年8月から翌年7月の1年間、同じ世帯でかかった医療費と介護費を合算し、所定の上限額を超えていたら、その超過分を払い戻してもらえる制度です。その上限額もまた、収入に応じて変わってきます。

高額介護合算療養費制度の負担上限額
出典:厚生労働省「高齢者医療制度~高齢者医療制度の概要等について
~3.医療費の自己負担について>高額介護合算療養費制度の見直しについて」を元に作成

2-1-2 公的介護保険制度ではカバーできないもの

もしも、介護が必要になったとしても、介護サービス費用に関しては公的介護保険制度でまかなえる部分も少なくありません。しかしその一方で、公的介護保険制度ではカバーできない空白部分も存在します。

その代表的なものとしては、「介護サービス費用以外の諸費用」「64歳以下の方が介護状態になったときの諸費用」が挙げられます。それぞれどのような費用なのかを具体的に見てみましょう。


○介護サービス費用以外の諸費用

介護状態になった場合、公的介護保険制度ではカバーし切れない費用としては「介護サービス費用以外の諸費用」があります。具体的に言えば、「日常生活費」「交通費」「住宅改修費・福祉用具費」などは、公的介護保険制度ではまかなえない場合があります。

たとえば在宅介護の場合、衣類やシーツなどの汚れ物が多くなると、洗濯の頻度が増え、今までよりも水道代がかかりますし、オムツや防水シーツ、特殊寝具の費用も決して小さくありません。流動食、経口保水液、配食サービスなどの費用も必要になるでしょう。

それだけでなく、家のなかの段差解消や手すりの取り付け、場合によっては階段昇降機を設置しなければいけないかも知れません。杖、補聴器、車いす等の福祉用具の購入も欠かせないところでしょう。そうした住宅改修費用・福祉用具購入費用の一部は公的介護保険制度でカバーできますが、それでも決して軽い負担では済まないことも考えられます。

もしも、治療や介護サービスを受けるために病院や施設へ通う場合、足腰の衰弱でバスや電車などの公共交通機関を利用できなかったら、タクシーに乗って通院・通所をしなくてはならず、その交通費も家計を圧迫します。

さまざま例を挙げてきましたが、このような費用の1つ1つは必ずしも大きいものではないかもしれません。ですが、これらすべてを合算するとかなりの金額に達する場合もあるのではないでしょうか。

○65歳未満の方が介護状態になったときの費用

公的介護保険制度で介護が必要になった時に保障を受けられる被保険者は、65歳以上の第一号被保険者と、40歳~64歳の第二号被保険者に分かれています。

すべての65歳以上の方(第一号被保険者)は、市区町村から要支援・要介護認定を受けた場合、公的介護保険制度を利用することができます。

ですが、40歳~64歳まで方(第二号被保険者)は、もし介護が必要な状態になったとしても、その原因が「特定疾病」(*8)でないと、公的介護保険制度の保障を受けることができません。たとえば、交通事故などで介護が必要になっても、公的介護保険制度から保障を受けることはできないのです。

さらに言えば、40歳未満の方は、そもそも公的介護保険制度に加入していないので、公的介護保険制度を利用する資格を持っていません。

つまり、介護が必要になった場合、65歳以上の方は公的介護保険制度を利用できるので介護費用の自己負担は抑えられますが、65歳未満の方は公的介護保険制度を利用できないので、介護費用のほとんどを自己負担しなければならないのです(40歳~64歳の方が特定疾病を原因として要支援・要介護認定を受けたケースを除く)。

2-2 結局、介護費用はどのくらいかかるの?

公的介護保険制度でカバーできる部分と、できない部分について見てきましたが、では実際にそれらを踏まえたうえで介護費用はどのくらいかかるのでしょうか?

生命保険文化センターでは、実際に介護を経験した方を対象として、介護に要した費用と期間についてアンケートを行っています(*9)。それによれば、介護に要する月々の平均費用は約8.3万円(公的介護保険制度の介護サービス費用の自己負担分込み)、介護に要する平均期間は61.1ヵ月(約5年1ヵ月)という結果が出ています。

そうすると、単純計算ですが、介護費用の平均は次のようになります。

●介護費用の平均
8.3万円×61.1ヵ月=約507万円

かなり大きな金額ではないでしょうか?

これだけの金額を預貯金や他の資産などで十分にまかなえたり、もしくは介護が必要になったときに全面的に面倒を見てくれる家族がいたりするのであれば、公的介護保険制度のほかに特別な備えは必要ないでしょう。

ですが、もしも現在の収入や将来的に受け取れる年金額、あるいは貯蓄だけでは上記の介護費用をカバーし切れないのなら、民間の介護保険を始めとして何かしらの備えが必要であると言えそうです。

3.民間の介護保険の必要性は?~必要な人と不必要な人~

前章までは、1.介護は身近なリスクである、2.公的介護保険制度があるとはいえ介護費用は大きくかかってくる、といった点についてご紹介しました。

もしも、いざというときに介護費用をまかなえる目途が立っていないのであれば、民間の介護保険は有効な方法の一つだと言えるのではないでしょうか。

ここでは、それを踏まえて民間の介護保険が必要な人と、不必要な人をまとめました。以下の基準を参考にして是非、「自分に民間の介護保険が必要かどうか?」を考えてみてください。

3-1 民間の介護保険が必要な人

  • ■年金を含む収入、預貯金や他の資産だけでは介護費用をカバーし切れない人
  • ■介護状態になったときに、面倒を見てくれる家族がいない、もしくは家族に負担をかけたくない人
  • ■64歳以下で要介護状態になったときの備えができていない方(64歳以下の方だと例外を除いて公的介護保険制度を利用できないため)

3-2 民間の介護保険が不要な人

  • ■年金を含む収入、預貯金や他の資産で介護費用を十分にカバーできる人
  • ■介護状態になったときに、全面的に世話をしてくれる家族がいる人

まとめ:介護のリスクに備える方法として民間の介護保険は有効!

いかがでしたか?
ここでは、

  • ・介護は決して他人事ではなく、高齢になったら誰にでも起こり得るリスク
  • ・公的介護保険制度があるとはいえ、それだけではカバーできない部分もある
  • ・介護が必要になった時にかかる費用は平均で約507万円
  • ・収入や預貯金などで介護費用をカバーできそうにない人には民間の介護保険は必要

といった点について見てきました。ですが、ここでお伝えしたことは民間の介護保険の必要性を考えるうえで、ごく基本的なことでしかありません。

お客様一人ひとりに民間の介護保険が必要かどうかは、年齢や職業、家族構成、他に加入している保険など、より多くの情報を含めて検討する必要があります。人によっては、介護に対するリスクに備える方法として、民間の介護保険ではなく、死亡保険や就業不能保険の方が適しているといったケースもあります。

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