介護保険について調べていると、「特定疾病」という言葉をよく見かけるのではないでしょうか。
特定疾病とは、公的医療保険や民間保険において「他の病気とは異なる特殊な扱いを受けることができる病気」を指しています。たとえば、保険によっては、特定疾病にかかってしまったときに、通常の病気では受け取れない特別な保障を受け取れるケースがあります。
しかしながら、特定疾病に指定されている病気は、各種保険ともに一律ではなく、それぞれの保険によって異なります。一例を挙げれば、公的医療保険における特定疾病は「慢性腎不全」「血友病」「後天性免疫不全症候群」ですが、民間の生命保険における特定疾病は「がん」「急性心筋梗塞」「脳卒中」となっています。
このように特定疾病と一口に言っても、各種保険によって様々な定義があるのですが、ここでは公的介護保険制度における特定疾病と、それにより特に若い方が注意すべきことについてお伝えしていきます。
1.公的介護保険制度における「特定疾病」とは?
1-1 そもそも公的介護保険制度ってなに?
公的介護保険制度は「社会全体で介護を支える」というコンセンプトのもと、2000年に設立された制度です。
原則的に日本では40歳以上の方は強制加入になっています。この公的介護保険制度があるおかげで、もしも介護が必要になったとしても介護サービスを1割~3割の費用負担で利用できたり、介護にかかった費用が一定額を超えたら払い戻しを受け取れたり、さまざま保障を受けることができます。
しかしながら、注意したいのは、介護が必要な状態に陥ったからといって誰もが等しく公的介護保険制度の恩恵にあずかれるわけではないという点です。公的介護保険の場合、公的医療保険制度のような収入に応じた保障の多寡の違いに加えて、年齢によって介護状態に陥ったときに公的介護保険制度を利用できる人/できない人が分かれています。
1-2 公的介護保険制度において特定疾病はどういう意味を持っている?
「え? ”公的“介護保険っていうことは国の制度なのに、人によって待遇が違うの?」と意外に思われた方もいらっしゃるかもしれません。順を追って見ていきましょう。
まず0歳~39歳までの方は、まだ公的介護保険制度に加入していません。先ほど公的介護保険制度は40歳から強制加入だとお伝えしましたが、裏を返せば40歳までは加入したくてもできないことを意味しています。
民間保険でも公的保険制度でも「保険金は保険加入者が所定の条件に該当したときに受け取れるもの」という原理原則に違いはありません。したがって、そもそも公的介護保険制度の加入者ではない0歳~39歳までの方は、当然その保障を受けることもできないのです。
では、公的介護保険制度の加入者である40歳以上の方はどうでしょうか。
公的介護保険制度の加入者は、65歳以上の「第一号被保険者」と、40歳~64歳までの「第二号被保険者」に分かれています。どちらも公的介護保険制度の加入者なので保障を受けることはできますが、保障が受けられる条件が異なります。
第一号被保険者は、もし介護が必要だと認められた場合、すべての人が公的介護保険から保障を受けられます。それに対して第二号被保険者は、単に介護が必要になっただけでは公的介護保険制度から保障を受けることができません。
第二号被保険者の場合、「特定疾病」を原因として介護が必要になった時にのみ公的介護保険制度から保障を受けられるのです。言いかえると、第二号被保険者の方はよほど特殊なケースでないと公的介護保険制度の保障を受けられないということです。そして、その特殊な条件とは「特定疾病を原因として介護が必要になったかどうか」という点なのです。
つまり、公的介護保険制度において特定疾病は、40歳~64歳の方が介護を必要としたときに、公的介護保険から保障を受け取れるかどうかを左右する基準として重要な意味を持っていると言えます。
1-3 公的介護保険における特定疾病って具体的には何?
では、具体的に公的介護保険制度における特定疾病とは何を指すのでしょうか? これは厚生労働省によって定義付けがされているので、それをそのまま引用しましょう。
- 「心身の病的加齢現象との医学的関係があると考えられる疾病」
- 「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因し要介護状態の原因である心身の障害を生じさせると認められる疾病」
正直、これだけでは良くわかりません。
これを参考にして簡単に言えば、特定疾病とは「老化を早めるような病気」や「老化を原因とした病気のうち、介護が必要になるような心身の障害を生じさせる可能性の高い病気」だと言えるでしょうか。
また、特定疾病は、前述したように第二号被保険者が公的介護保険制度の保障を受けられるかどうかに深くかかわっています。そのため、可能なかぎり迅速にその可否を判断する観点から、具体的な特定疾病の病名として16項目が明確に定められています(*1)。
- ■公的介護保険制度における特定疾病
- ・がん末期
- ・関節リウマチ
- ・筋萎縮性側索硬化症
- ・後縦靭帯骨化症
- ・骨折を伴う骨粗鬆症
- ・初老期における認知症
- ・進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
- ・脊髄小脳変性症
- ・脊柱管狭窄症
- ・早老症
- ・多系統萎縮症
- ・糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- ・脳血管疾患
- ・閉塞性動脈硬化症
- ・慢性閉塞性肺疾患
- ・両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
繰り返しになりますが、公的介護保険制度における40歳~64歳の第二号被保険者は、介護が必要な状態になったとしても上記の特定疾病が原因でない限り、公的介護保険制度から保障を受けることができません。
その意味では、64歳以下の方の場合、介護状態になったときの公的保障制度はやや心もとないと言えます。つまり、若い人は介護に関する公的制度が手薄なのです。
2.若い人はどのように介護に備えればいいか?
さて、前章では
- ・公的介護保険制度における特定疾病とは何のことなのか
- ・40歳~64歳の方は介護状態になったとしても特定疾病を原因としたもの以外では公的介護保険を利用できない
この点についてお伝えしてきました。
この話を聞いて「じゃあ、若い人がもし介護が必要になったらどうしたら良いんだろう?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
若い方の場合、働いていることがほとんどですから、もしも介護状態に陥ったらそれまでのように働く事もできなくなり、介護費用に加えて収入も減少してしまいます。家族がいるのであれば、家族にも大きな負担を強いてしまう可能性がありますし、子どもにやりたい事を諦めさせる決断を強いたり、あるいは苦労して手にしたマイホームを手放さなければならないかもしれません。そうならないためにも、何かしらの対策は立てておきたいところです。
実は、そのときに役立つのが民間の保険。
民間の保険の役割は「公的な制度だけではカバーできない部分を補うこと」です。ここでは、若い方が介護が必要な状態になったときの2つのリスク、「介護費用による支出増加」と「働けなくなることによる収入減少」に備えるための有効な方法として、民間の介護保険と就業不能保険をご紹介します。
2-1 介護費用による支出増加に対しては民間の介護保険を
介護状態になったときにかかる大きな費用しては、介護費用が挙げられます。もちろん優れた公的介護保険制度も用意されていますが、生命保険文化センターの調査(*2)によれば、実質的な介護費用は月8.3万円、介護に要する期間は61.1ヵ月(約5年1ヵ月)だという結果が出ています。
その結果にしたがえば、単純計算ですが、
月8.3万円×61.1ヵ月=約507万円
となります。
多くの方が、これだけの金額を何の備えもなしにカバーするのは容易ではないでしょう。そのようなときに有効な保険が、民間の介護保険です。
民間の介護保険は、所定の介護状態に該当した場合に、介護保険金が支払われます。特に公的介護保険制度からの保障が手薄い若い方には重要な保険の1つだと言えるでしょう。
介護保険については、別の記事で詳しく紹介していますので、是非そちらにも目を通してみてください。
■参考記事「介護保険とは?~公的介護保険制度から民間の介護保険まで~」
2-2 働けなくなることによる収入減少に対しては就業不能保険を
また、若い方が介護状態になった場合、介護費用による支出増加以外にも、働けなくなることによる収入減少が大きな不安要素の1つです。
介護状態になるということは、日常生活において他人の介護が必要になるということですから、働けなくなる可能性も十分に考えられます。働けなくなってから最初のうちは、会社員の方であれば傷病手当金で健康時の収入の約2/3は確保できますし、その後も条件を満たせば障害年金を受給することができます。
しかし、いくら公的な手当てが期待できるからといって、健康時と同じだけの収入を得るのは難しいですし、生活水準を維持するのも至難の業でしょう。もし何も備えがなければ、家族や身近な人に大きな負担をかけてしまうかもしれません。
そのようなリスクに対する備えが、就業不能保険です。
就業不能保険は、もし就業不能状態=働けない状態になったときに、給与のように毎月一定の保険金を受け取れるタイプの保険。病気やケガで働けなくなり今まで通りの収入を得られなくなったとしても、その減った分の収入を保険で補填できれば著しく生活が苦しくなることはないですし、いくぶん家族への負担も和らぎます。
その意味では、就業不能保険もまた、比較的に公的介護保険から保障を受けにくい若い方こそ、準備する意義が深い保険だと言えるでしょう。
就業不能保険についても、別の記事で詳細を解説していますので、併せてそちらの記事もご一読頂ければ幸いです。
まとめ:若い人こそ介護保険や就業不能保険の備えを!
いかがでしたか? ここまで、
- ・各種保険によって特定疾病の定義は違う
- ・公的介護保険制度における特定疾病は16種類
- ・40歳~64歳のまでの方は特定疾病を原因としない限り、介護状態になっても公的介護保険から保障を受けられない
- ・0歳~39歳までの方はそもそも公的介護保険制度に加入していないので、その保障は受けられない
- ・それゆえに若い方こそ、介護状態になったときに備え、民間の介護保険や就業不能保険を用意しておいたほうがいい
といった事についてお伝えしてきました。
しかし、ここでお伝えしたことは公的介護保険制度の全貌のごく一部に過ぎません。そこで保険見直し本舗では、公的介護保険制度から民間の介護保険まで、より総合的にご紹介している記事もご用意しています。
是非そちらも併せてご一読と頂けると幸いです。