私たちにとって、自転車は身近な乗り物です。運転するのに免許もいらないことから、誰もが普段の買い物や通勤・通学、趣味のサイクリングなどで気軽に自転車を利用しています。
自転車事故についても「自転車だから事故を起こしても大したことにはならないだろう」といった軽いイメージを持たれているかもしれません。しかし、法律的にいえば自転車は「車両」です。もしも法律違反をして事故を起こした場合、自転車の運転手は刑事上の責任や民事上の責任を問われます。
特に最近では、自転車事故の加害者が民事上の責任として数千万円の高額な損害賠償の支払いを命じられるケースが多くなっています。そうした事例を受けて、自転車保険への加入を義務付ける自治体や都道府県も徐々に増えているのが現状です。
もちろん自転車事故は、「そもそも起こさないようにすること」が肝心です。
自転車事故を防止するうえでは、自転車に乗る一人ひとりがマナーや交通ルールを守り安全運転を心がけることが最も重要だと言えるでしょう。
しかし、どんなに気をつけていても「絶対に事故が起きない」ということはありません。万が一にも自転車事故を起こしてしまったら、他人を傷つけたり自分がケガを負ったりしてしまうことも考えられます。そして、そうなれば、相手方に支払う賠償金や自分自身のケガの治療費といった費用がかかってくるでしょう。
自転車保険は、そのようなリスクに対して備える保険です。先に少し触れたように、自転車事故の賠償責任の高額化や、一部の自治体や都道府県での自転車保険への加入義務化を受けて、自転車保険を検討する方は多くなってきています。
でも、いざ自転車保険を選ぼうとして、
「具体的に自転車保険って、どうやって選ぶんだろう……?」
と立ち止まってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで、ここでは自転車保険の選び方について分かりやすくお伝えしていきます。
1.自転車保険の補償内容はどうすればいい?
基本的に自転車事故のリスクとしては、「自転車で他人を傷つけてしまうリスク」と「自分がケガをしてしまうリスク」があります。それらのリスクに対して備えるために、自転車保険は「個人賠償責任補償」と「傷害補償」がメインになっています。したがって、自転車保険を選ぶうえでは、この個人賠償責任補償と傷害補償をどのように設定するかがポイントです。
1-1 個人賠償責任補償は手厚く準備を!
「自転車で他人を傷つけてしまうリスク」とは、「自転車事故の加害者になることによって高額な賠償責任を負うリスク」と言いかえることができます。たとえば、あなたが運転する自転車で他人にケガを負わせたり、亡くならせたりした場合、法律上の損害賠償責任を負うことになります。
自転車事故で加害者に課される賠償金は、かなり高額に達することもあります。実際、自転車事故の加害者が、裁判で数千万円から1億円近くの賠償金の支払いを命じられたケースも増えているのが現状です(*1)。
一般的に言えば、これだけの賠償金を支払うことになったら、生活そのものが成り立たなくなってしまうでしょう。それゆえに、自転車事故をめぐるリスクのなかでも自転車で他人を傷つけてしまうリスクは、かなり大きいウェイトを占めると言えます。
そうした自転車事故で高額な賠償金を負うリスクに対して備えるのが、自転車保険の個人賠償責任補償です。一般的に自転車保険の個人賠償責任補償の金額は、数千万円~3億円程度の間に設定されています。
最近の自転車事故の損害賠償責任の動向をふまえると、できるだけ個人賠償責任補償は手厚いものが安心です。少なくとも、個人賠償責任補償は1億円以上あったほうが良いと言えそうです。
1-2 傷害補償は医療保険や死亡保険とのバランス!
次に自転車事故のリスクとして考えられるのは、「自分がケガをしてしまうリスク」です。
たとえば、自転車に乗っているときに転倒したり電柱などに激突したりすれば、ケガを負ってしまうことがあるでしょう。ケガの程度によっても変わってきますが、そうしたとき通院や入院、手術などが必要になることがあります。あるいは最悪の場合、亡くなってしまったり、後遺障害が残ったりしてしまう懸念も拭えません。
そのような自転車事故で自分がケガを負うリスクに対して備えるのが、自転車保険の傷害補償だと言えます。
傷害補償は、入院保険金、死亡・後遺障害保険金などを中心に構成されています。そのほかに、保険会社や商品によって異なりますが、通院保険金、入院一時金、手術給付金などがセットになっているものもあります。
傷害補償の金額をどれくらいに設定するかについては、医療保険や生命保険と重複する部分があるので一概には言えません。ですが、結論から言えば、おおよその目安としていま加入している医療保険や死亡保険と合わせて、入院給付金は日額10,000円、死亡保険金は200万円~300万円を一つの基準にすると良いかもしれません。
○入院給付金
まずは入院給付金から見ていきましょう。
自転車事故を含む交通事故で多いケガとしては、骨折や脊柱障害などが挙げられます。厚生労働省の「平成29年 患者調査」(*2)によれば、それぞれの平均入院日数としては、骨折が37.2日、脊柱障害が26.3日という結果が出ています。
では、入院1日あたりの費用は、どのくらいかかるのでしょう。生命保険文化センターの「令和元年度 生活保障に関する調査」(*3)では、入院した場合の1日あたりの自己負担額は平均23,300円となっています。
これらの結果に従うのであれば、大きな自転車事故で骨折や脊柱障害といったケガを負った場合、骨折なら約87万円、脊柱障害なら約61万円の費用がかかる計算です。これだけの費用を貯金などでカバーするのは大変、という方も多いのではないでしょうか。
ですので、自転車保険の傷害補償の入院保険金は、1日あたりの自己負担額23,300円の半分をカバーすることを想定し、すでに加入している医療保険の入院給付金日額とあわせて日額10,000円程度をおおよその目安にすると良いかもしれません。
○死亡保険金
続いて死亡保険金については、自転車事故で万が一のことがあったときの葬祭費用を目安にすると良いと思われます。一般的に葬祭費用は200万円~300万円だと言われています。
もしまだ加入している死亡保険がないのであれば、自転車保険の死亡保険金については、最低限の葬祭費用として少なくとも200万円~300万円はあったほうが良いでしょう。逆にすでにしっかりと死亡保険を準備している場合は、さほど死亡保険金は重視しなくていいと言えそうです。
2.補償範囲や付帯サービス・特約はどうしたらいい?
自転車保険のメインである「個人賠償責任補償」と「傷害補償」が決まったとして、まだまだ自転車保険には悩ましいポイントがいくつかあります。特に自転車保険選びで悩んでしまうのは、「補償の範囲」と「付帯サービス・特約」でしょう。ここでは、それらをどのように選んでいくか見てみましょう。
2-1 補償範囲はどこまでにする?
自転車保険には大きく分けて、被保険者のみを補償対象とする「個人型」と、被保険者のほかにその家族も補償対象とする「家族型」があります。
もしも、あなたが家族型の自転車保険に加入したなら、その補償で配偶者や子供が自転車事故を起こしたときにも保険金を受け取ることができます。自分以外に自転車に乗る家族がいない場合は個人型の自転車保険で十分でしょうし、自分のほかにも自転車に乗る機会の多い子供や配偶者などの家族がいる場合であれば家族型の自転車保険へ加入したほうが良いと言えそうです。
ただし注意したいのは、一口に家族型といっても、商品によって被保険者以外に補償が適用される範囲が異なることがあるので、その点は加入時にしっかりチェックしましょう。
2-2 付帯サービスや特約について
自転車保険には、いくつかの付帯サービスと特約があります。代表的なものでいえば、付帯サービスは自転車ロードサービスや示談代行サービス、特約は弁護士費用特約等が挙げられます。
○自転車ロードサービス
自転車ロードサービスは、事故や故障で自転車が走行不能になったとき、希望の場所まで自転車を運搬してもらえるサービスです。
身近な例だと、タイヤがパンクしたり、サドルが盗まれたり、チェーンが切れたりといったパターンが一般的でしょうか。そのようなときに自転車ロードサービスが付帯していたら、かなり助かることは間違いないと思います。自転車ロードサービスは付帯しているものを選んだほうが良いと言えそうです。
ただし、保険会社や商品ごとに対応できる時間や地域、運搬してくれる距離などに違いが見られるので、その点には注意を払いましょう。
○示談代行サービス
示談代行サービスは、自転車事故での示談交渉を保険会社のプロが代行してくれるサービスです。
自転車保険では、自動車保険で言う「自賠責保険」のような誰もが必ず入らなければいけない保険がありません。ですので、自転車事故に際しては当事者同士に共通の土台がなく、話し合いのポイントが明確にならないまま平行線をたどり、お互いに望まぬトラブルになってしまうケースも見られます。
示談交渉は、当事者同士の都合を調整しながら損害賠償の金額なども決めていく重要な場面です。そんなとき、示談代行サービスを活用し、自分に代わって保険会社のプロが示談交渉の場に臨んでくれたら、とても心強いのではないでしょうか。自転車保険を選ぶうえでは、できるだけ示談交渉サービスが付帯しているタイプを選んだほうが良いと言えます。
○弁護士費用特約
先に示談代行サービスについてお伝えしましたが、自転車事故を起こしても示談交渉サービスを利用できないケースがあります。「過失割合0」、つまり相手が100%悪く、自分に全く非がない事故です。
保険会社の視点から見ると、示談交渉の目的は「被保険者の過失割合に応じて保険会社が相手方へ支払うべき金額をできるだけ少なくするため」と言えます。言い方をかえると、被保険者が過失割合0の事故の場合、そもそも保険会社には示談交渉にのぞむ利害関係がないのです。それゆえに、過失割合0の事故では基本的に示談代行サービスは利用できません。
そうなると、過失割合0の事故のときにプロに示談を代行してもらおうとしたら、弁護士に依頼するしかありません。当然、弁護士に法律相談や示談代行を依頼するのであれば弁護士費用がかかります。その費用を補償するのが弁護士費用特約です。
弁護士費用特約は、自転車保険を「他人を傷つけてしまったときの保険」と割り切るのであれば、かならずしも必要な特約とは言えないでしょう。
3.他の保険との「ダブり」に注意!
お伝えしてきたように、自転車保険は「個人賠償責任保険」と「傷害保険」のセットになっています。しかし、これらの補償は自転車保険でないとカバーできないものではありません。
注意したいのは、実はすでに加入している保険のなかに個人賠償責任保険や傷害保険があった、ということです。とくに自動車保険や火災保険に加入している場合、個人賠償責任保険が特約として付帯していることは少なくありません。個人賠償責任保険は特約で付加しても大きく保険料が跳ね上がるわけではないので、ついつい加入していることを忘れがちです。
傷害保険についても、単独の傷害保険や医療保険、死亡保険などにすでに加入しているなら、かならずしも必要だとは言えません。もうこれらの保険に加入しているなら、自転車保険がなかったとしても、自転車事故でケガをして通院、もしくは入院や手術をしたとき、保険から十分なサポートが受けられるでしょう。
つまり、今現在加入している保険を確認し、もし自転車保険に類する補償があるのであれば、新たに自転車保険に入る必要性は低いと言えるでしょう。ですから、自転車保険を選ぶときには、まず自分が加入している保険の保険証券を確認し、どのような補償(保障)が備わっているのかを明確にしましょう。
そしてそのうえで、自転車事故が起こったときに、いま自分が加入している保険ではカバーできないリスクの輪郭をハッキリさせ、それを自転車保険(場合によっては他の保険)でどのように補っていくか、というふうに考えるのが自転車保険選びのセオリーだと言えそうです。
まとめ:自転車保険を選ぶときには保険の総合点検を!
いかがでしたか?
ここでは、自転車保険の選び方について分かりやすくお伝えしました。これで自転車保険を選ぶうえでの基本的な考え方についてはご理解頂けたのではないかと思います。
ただし、先に触れたように、自転車保険の補償は自動車保険や火災保険、もしくは医療保険や死亡保険と重複する部分も少なくありません。仮に、もうすでに十分な補償(保障)を準備しているのであれば、さらに上乗せで同じ補償(保障)を用意しても意味はないでしょう。
ですので、自転車保険を選ぶためには、自分の加入している保険の内容をしっかり把握することから始めるのが大切だと言えます。
「自分がどういう保険に入っているのか確認したうえで自転車保険を選ばなきゃいけないとなると、かなり大変そうだな」
少しでもそう思われた方は、プロに頼るのも一つの方法です。
保険見直し本舗でも、皆さんの保険選びをお手伝いします。保険見直し本舗には、知識も経験も豊富なプロとしてコンサルティングアドバイザーが多数在籍しており、皆さんの保険のお悩みに一つ一つ丁寧にご対応いたします。
まずは皆さんの保険についてのお悩みをお気軽にお寄せください。心よりお待ちしております。