在宅介護の初期費用はどれくらい?補助金や保険で備える方法をご紹介

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保険の基礎知識
在宅介護の初期費用はどれくらい?補助金や保険で備える方法をご紹介

内閣府の「令和3年版高齢社会白書」によると、日本の総人口に占める65歳以上の方の割合は28.8%(*1)で、約3.5人に1人が高齢者という超高齢社会を迎えています。

平均寿命が年々上昇する日本では、年を重ね介護が必要になっても、住み慣れた地域で自分らしい生活を最期まで持続していく「地域包括ケアシステム」という体制が進められています。

もちろん、誰しもが「住み慣れた自宅で暮らしたい」「できることなら自宅で親の介護をしたい」と願うのではないでしょうか。しかし、自宅で介護をする場合、福祉用具を買い揃えたり、自宅をバリアフリーにするなどの初期費用が必ずかかります。

介護保険や各自治体の補助金など、支援制度はたくさんありますが、補助金だけでは賄えないという方がいるのも現実です。そこで本記事では、自宅で介護を始めるための費用の実情とともに、公的介護保険制度、介護費用に備える民間の保険についてご紹介します。

1.介護の初期費用はいくら必要?

生命保険文化センターの「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査(速報版)」によると、介護を行った場所は自分の家が40.2%親や親族の家が16.6%で、半数以上の人が介護を在宅で行っています(*2)。

自宅で介護をするための環境を整えることで、介護をする側も受ける側も負担を減らすことができます。では、在宅介護を開始するための環境整備には、どれくらいの初期費用がかかるのでしょうか。

介護費用にかかる一時的な費用の合計

同調査によると、バリアフリーや手すりを付けるなどの住宅のリフォームや介護用品の購入など、介護に要した一時費用は50万円未満が半数以上を占めています。

そして、15万円未満が34%を占めている一方で、200万円以上かかったという回答も6%ありました。その結果、一時費用の平均額は74万円となっています(*2)。

このように、介護を開始するにあたっての初期費用の金額は、自宅の状況によりさまざまなようです。

実は介護保険では、月々の介護にかかる経済的負担を軽減するだけではなく、介護のための住宅のリフォームや介護用品の購入など、一時的にかかる初期費用の補助も受けることができます。補助金の支給条件や金額など、次章で詳しく解説します。

2.在宅介護を開始するにあたって利用できる補助金

公的介護保険制度は、65歳以上の高齢者または40歳~64歳の特定疾病に該当する方が、各市区町村にて要支援・要介護認定を受けることによって利用できるものです。

要支援・要介護認定とは、介護保険の適用を受けるために、介護が必要かどうかを公的に認めてもらう制度です。介護度が低いものから順に「要支援1~2・要介護1~5」の7段階に分かれており、重度になるにつれて1か月に利用できる介護保険の上限金額が増える仕組みです。

かかった費用のうち1割または2割(現役並みの所得がある方は3割)が自己負担となります。

そして、公的介護保険制度で利用できる介護サービスには、以下のようなものがあります(*3)。

  • ・訪問介護や訪問看護などの支援を受けるサービス
  • ・デイサービスやデイケア、ショートステイなど通って利用するサービス
  • ・介護施設への入所サービスなどの月々かかる介護費用
  • ・福祉用具レンタル・購入や住宅改修などの生活環境を整えるためのサービス など

その中でも特に一時的な費用負担が大きく、条件が複雑な住宅のリフォーム費用と介護用品の購入費用に関して詳しくご説明していきます。

⇒要支援と要介護の違いとは?~介護保険の要支援・要介護とは何のこと?~

2-1 自宅のリフォーム費用

要支援・要介護認定を受けた方を在宅介護される際、介護保険を利用して住宅のリフォーム費用を補うことができます。上限金額は要支援・要介護の区分に関わらず20万円で、そのうちの9割相当額が償還払いで支給されます

普段あまり耳にすることのない「償還払い」とは、医療や介護サービスでの給付の方法です。介護保険を利用して支払いをする際、一時的に自身で全額を支払い、後日自治体へ申請をすることで自己負担額を差し引いた金額が払い戻されます。

なお、住宅リフォームの給付を利用できるのは原則1人につき1回と定められていますが、上限額の範囲内であれば複数回に分割することも可能です。また、例外として、要介護状態区分が3段階以上上がった場合や、転居した場合は再度利用することができます。

介護保険が適用となる住宅のリフォームには、以下のものがあります(*4)。

  • ・手すりの取り付け
  • ・段差の解消
  • ・滑り防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
  • ・引き戸等への扉の取替え
  • ・洋式便所等への便器の取替え
  • ・その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修

また、自治体ごとに独自のリフォーム補助をしている場合もあります

自治体 安中市 新潟市 いわき市
名称 高齢者住宅改造費補助 高齢者向け住宅リフォーム助成 高齢者等
住宅リフォーム(改良)事業
補助対象 ・浴室や便所の改修
・居室の改造
・手すりの取り付け
・段差解消 など
・手すりの取り付け
・段差解消
・床材の変更
・浴室改修 など
・居室や浴室、便所、廊下、階段、玄関など
条件 ・65歳以上
・要介護2以上の認定者がいる世帯
・前年度の所得税額8万円以下
・65歳以上
・要支援・要介護認定者がいる世帯
・前年度の世帯年収600万円未満
・60歳以上
・要介護者or身体障害者
補助費用 5/6
※上限20万
50~100%
※収入と対象者の身体機能による
上限100万円
※金額は世帯の生計中心者の市民税課税状況による

2-2 介護用品の購入費用

多くの福祉用具は、介護保険を利用してレンタルすることが可能です。しかし、その中でも入浴や排せつ用具のような「再利用するには抵抗があるもの」や「再利用が難しいもの」は、介護保険を利用して購入することができます。

特定福祉用具販売」または「特定介護予防福祉販売」の保険適用対象は、要支援1以上の認定を受けた方で、毎年4月1日からの1年間で合計10万円までとされています。住宅のリフォームと同様に、利用者が一旦全額支払った後、1割~3割は自己負担となり、残りが払い戻される仕組みです。

10万円を超えた額に関しては全額自己負担となり、購入できるのは同一年度内で原則的に1品目1回までとなります。

特定福祉用具販売・特定介護予防福祉販売の対象品目としては以下のものです(*5)。

  • ・腰掛便座
  • ・自動排泄処理装置の交換可能部品
  • ・入浴補助用具
  • ・簡易浴槽
  • ・移動用リフトのつり具の部品(リフト部分は含まれない)

3.民間の介護保険で突然の介護に備える!

在宅介護にかかる初期費用は平均69万円と前述しましたが、大がかりな住宅リフォームなどが必要な場合には公的介護保険制度では全額が賄いきれないため、家計への負担は重くのしかかります。

民間の介護保険に加入していれば、補助金では賄いきれない急な出費に備えることができるため、加入を検討してみてはいかがでしょうか。そこでこの章では、民間の介護保険のタイプや保険金の受け取り条件、受け取り方法を簡単にご紹介しておきます。

3-1 民間の介護保険は2つのタイプがある

民間の介護保険には以下のタイプがあります。

  • 掛け捨て:介護状態になった際に保険金を受け取れる
  • 積み立て:介護状態になった際に保険金が受け取れるほか、死亡保障や高度障害保障がある。また、満期時や解約時にも保険金を受け取れる。

掛け捨てタイプに比べ、積み立てタイプは死亡保障や高度障害保障もあり、なおかつ満期時や解約時に保険金が受け取れる貯蓄性を兼ね備えたタイプなのですが、その分、保険料は割高になります。

介護にかかる初期費用に備えるためだけであれば、月々の保険料が割安な掛け捨てタイプや、保険金・保険料ともに通常の介護保険よりも低い金額に設定されている少額短期保険を検討してみると良いでしょう。

3-2 保険金の受け取り条件は?

介護保険金の受け取り条件には以下の2つのタイプがあるため、加入時には注意が必要です。

  • 公的保険制度連動型:要支援・要介護認定を受けた際に保険金を受け取れる
  • 独自基準型:各保険会社が定めた基準に該当すると保険金を受け取れる

公的保険制度連動型は基準が明確な一方で、独自基準型は保険会社ごとに基準が異なるため、加入前に「基準」と「保険料」を必ず確認しましょう。基準が厳しければ保険料は割安となり、基準が緩い場合は割高となります。

3-3 保険金の受け取り方法は?

保険金の受け取り方は、以下の3タイプがあります。

  • 年金:決められた期間にわたって保険金を年金として分割で受け取る
  • 一時金:一括で保険金全額を受け取る
  • 年金+一時金:保険金の一部を一時金で受け取り、残額を定期的に年金として受け取る

月々の介護費用に備えるには「年金タイプ」、初期費用のみに備えるのであれば「一時金タイプ」、現在の貯蓄や保険では心もとないようであれば「年金+一時金」を選ぶと良いでしょう。

介護保険全般についての詳しいことは、以下の記事を参照してください。

⇒介護保険とは?~公的介護保険制度から民間の介護保険まで~

まとめ:在宅介護にかかる初期費用の備えをお忘れなく!

親族の介護をすることになった場合に利用できる公的支援制度はありますが、自宅の環境や介護の度合いによっては、介護を始めるにあたって経済的負担が重くのしかかることも……。

いつやってくるか分からない介護に備えて、公的介護保険制度で賄いきれない部分を民間の介護保険で補うことは合理的な手段のひとつとも言えます。まずは、来たる老後や介護に備えて、ご家族で話し合うきっかけにしてみましょう。