車両保険とは、任意の自動車保険(任意保険)の一つで、ご自身の車に対する補償です。補償の対象となる車両が交通事故で損害を負った場合に、損害の程度に応じた保険金が支払われます。
車両保険が必要かどうかは、ご自身の収入や貯蓄額、車両の価値、ローンの有無などによって異なります。車両保険の必要性を適切に判断しなければ、保険料負担が家計を圧迫する恐れがあります。また、事故が発生しても十分な補償を受けられないかもしれません。
本記事では、これから自動車保険に加入する方や、契約更新で補償内容を見直したい方に向けて、車両保険の補償内容やその必要性について分かりやすく解説していきます。
1.車両保険は必要?
自動車保険加入の際に、車両保険を付けると保険料が上がってしまうため、付帯するか悩む方も多いのではないでしょうか 。車両保険の必要性を検討する前に、まずは実際にどのくらいの方が加入しているのかを見ていきましょう。
⇒「そもそも車両保険ってどんな時に補償されるの?」と疑問に思った方はこちら
1-1 どれくらいの人が車両保険に入っている?
損害保険料率算出機構の調査(*1)によると、車両保険の普及率は、2021年3月時点で46.2%でした。うち、自家用乗用車の車両保険普及率は以下の通りです。
自動車種別 | 普及率 |
---|---|
自家用普通乗用車 | 62.8% |
自家用小型乗用車 | 52.4% |
軽四輪乗用車 | 48.4% |
第18表 任意自動車保険 用途・車種別普及率表〈2021年3月末〉(P.118~119)より一部抜粋
このように約4~5割の方は、車両保険を付帯していません。
一方で、2021年に発生した交通事故は全国で約30.5万件(*2)、つまり平均で1日に約836件の交通事故が発生しています。交通事故に遭って車両が損害を負う可能性は、決して低くないといえるでしょう。
1-2 車両保険は保険料の支払額割合がいちばん高い!
次に、車両保険を付けている方への保険金の支払額を見ていきましょう。ハイテク化などによる車の修理費用の増加や、近年増加している台風や洪水など自然災害の影響により、自動車保険全体のうち、車両保険の保険金支払額の割合は以下のように増加傾向にあります(*3)。

また、車両保険の支払総額は、2018年度には対物賠償保険の支払額を抜き、いちばん多くなっていることが分かります。
どんなに安全運転をしていても、相手のある交通事故が起こる確率はゼロではありませんし、自然災害は年々増加傾向にあり、いつどこで起こるか分からないものです。
そのため、車の損害を貯蓄で賄えない恐れがある場合は、車両保険に加入しておくと安心です。
1-3 車両保険に入っていないと自車の修理費用は自己負担!?
車同士の事故の場合、相手が任意の自動車保険の中の「対物賠償保険」に加入していれば、保険金でご自身の車の修理費用や買い替え費用を賄えますが、事故の過失割合によっては修理費用を自己負担しなければなりません。
例えば、ご自身の車の修理費用が100万円で、過失割合が自分3:相手7であった場合、相手側からは70万円の保険金が支払われますが、残りの修理費用30万円は自己負担となります。

もし、交通事故の相手が任意保険に未加入だったり対物賠償保険を付けていなかった場合、自身も車両保険に加入していなければ、車の修理費用は全額自己負担となります。
なお、対物賠償保険の普及率は2021年3月末時点で75.3%です(*1)。よって残りの24.7%、100台に約25台が、対物賠償保険に加入していないのが現状です。
2.車両保険を付けるポイント
車両保険の概要とその必要性については、大まかに把握していただけたと思います。では、どのような場合に車両保険の必要性が高いのでしょうか? 車両保険の必要性が高いケースと低いケースをそれぞれご紹介します。
2-1 車両保険が必要なケース
車両保険の必要性が高いと考えられるのは、以下のようなケースです。
- 1. 新車または高級車に乗っている
- 2. 車のローン残高がある
- 3. 初心者ドライバーや運転に自信のない人が運転する
新車の場合、車両保険の保険金額を高く設定できるため、修理費用や買い替え費用を賄いやすくなります。また高級車は、小規模な修理であっても費用が高額となりやすいため、車両保険に加入していると安心でしょう。
ローンを組んで車を購入している方は、車両保険に加入せずに車が廃車になってしまうと、交通事故が発生したあとにローンの支払い義務だけが残ります。しかし、車両保険に加入していると保険金をローンの返済に充てられるため、経済的な負担を軽減できます。
また初心者ドライバーは、ベテランドライバーと比較して交通事故を起こすリスクが高いため、車両保険の必要性は高いと考えられます。実際に、死亡事故の発生割合は、免許を取得して1年未満がもっとも高いです(*4)。
免許取得後経過年数ごとの死亡事故発生件数と割合 | ||
---|---|---|
免許取得後経過年数 | 死亡事故発生件数 | 割合 |
1年未満 | 108件 | 4.6% |
2年未満 | 70件 | 3.0% |
3年未満 | 56件 | 2.4% |
4年未満 | 43件 | 1.8% |
5年未満 | 52件 | 2.2% |
初心者ドライバーや運転に自信のない方は、慎重な運転を心がけることはもちろんですが、車両保険に加入することで「もし事故に遭っても保険で車を修理できる」と考えることもでき、より安心して運転できるでしょう。
特に若い方の中には、貯蓄が少なく事故が発生しても車の修理費用や買い替え費用を捻出できない方も多いです。交通事故に遭う確率が高いにもかかわらず、損害に対処できない場合は、車両保険に加入する必要性は高いといえます。
2-2 車両保険が必要ないケース
一方で以下のケースでは、車両保険の必要性が低いと考えられます。
- 1. 古い車に乗っている
- 2. 修理費用を自己負担できる
- 3. 車に乗る機会が少ない
初年度登録日から10年以上が経過したような中古車は、車両の評価額が低いため車両保険の保険金額も低くなり、交通事故が発生しても修理費用や買い替え費用を保険金で賄えない可能性があるのです。
また、ご自身の貯蓄で車の修理費用を支払えて、今後の生活にも支障が出ないという方も、車両保険を付帯する必要性は低いといえます。
そして、車に乗る機会が少ない方は、交通事故に遭うリスクが低いです。加えて、そのような方は通勤で日常的に車を利用する方と比べて、車両を修理したり買い替えたりしなくても生活に支障をきたさない可能性があります。
近年では、スマホアプリからタクシーを簡単に呼べたり、カーシェア用の車両を設置するコインパーキングも増えたりしています。車を所有していなくてもタクシーやカーシェアなどの利用で生活が成り立つのであれば、マイカーにこだわることなく、ご自身の生活に合った車の所有方法を見直してみるのも良いでしょう。
3.車両保険を安くするには?
車両保険の保険料設定は損害保険会社や車種・等級によってさまざまですが、車両保険を付帯すると自動車保険全体の保険料は約1.5~2倍、場合によっては3倍近くなることがあります。車両保険を付帯しつつも、保険料を抑えたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
ここでは、保険料負担を抑えて車両保険に加入する方法をご紹介します。
3-1 エコノミー型を付帯する
車両保険には、一般型とエコノミー型の2つのタイプがあります。
車両保険の保険料を削減するもっとも手軽な方法は、エコノミー型に加入する方法でしょう。エコノミー型は以下のように一般型よりも補償範囲が狭いため、保険料が安価に設定されています。

ただしエコノミー型は、「あて逃げ」「転落・転覆」「単独事故(自損事故)」「自転車との接触事故」(上表の×印部分)は補償されません。そのため、相手が分からないあて逃げに遭った場合や単独事故を起こした場合に備えて、修理資金や買い替え用の資金を貯蓄しておく必要があります。
3-2 免責金額を高めに設定する
免責金額とは、修理費用のうち契約者が自己負担する金額です。自動車保険の契約時に免責金額を高く設定すると、保険会社が事故の際に支払う保険金額が少なくなり、その分保険料が安くなります。
車両保険の免責金額の設定には、以下の2種類があります。
- ●定額方式:事故の回数にかかわらず免責金額が一定額である方式
- ●増額方式:事故の回数が増えるたびに免責金額も増える方式
定額方式のほうが、増額方式よりも保険料は安くなります。また、車両保険の保険料を抑えたいのであれば、免責金額の設定を高くして定額方式にするのも一つの方法です。
なお、車両保険の免責金額は、初回の事故が免責なし(全額補償)、2回目以降の事故が免責(自己負担額)10万円という「0-10万円」が一般的です。
3-3 複数の保険会社から見積もりを取り寄せて比較する
車両保険を付帯するかどうかにかかわらず、自動車保険に加入する際は、複数の保険会社から見積もりを取り寄せて比較することが大切です。
保険会社によって保険料設定が異なるため、同じ車両で同じ補償内容であっても保険料は同じとは限りません。また保険会社によっては、「インターネット割引」「エコカー割引」「自動ブレーキ(ASV)割引」などが適用される場合もあります。
4.ケーススタディ:車両保険が必要な人、必要ない人
最後に、車両保険が必要な人とそうでない人の例を、モデルケースを用いて解説します。
4-1 車両保険が不要なケース
- ●Aさん23歳
- ●免許を取って2年
- ●社会人になって安い中古車を購入
- ●車に乗るのは週末が中心
- ●まだ収入が少ないので、保険料を切り詰めたい
Aさんは免許を取って2年ですので、運転技術が未熟であり、交通事故を起こすリスクが高い可能性があります。しかし、Aさんが購入した車両は安い中古車であるため、車両保険を付帯しても、事故の際に充分な保険金を受け取れないかもしれません。
また、Aさんが車に乗るのは主に週末であるため使用頻度は少なく、加えて収入が少ないため、車両保険を付帯すると家計が圧迫される恐れがあります。
以上の点から、Aさんは 車両保険を付帯する必要性は低いでしょう。
4-2 必要なケース~エコノミー型の車両保険
- ●Bさん35歳
- ●新車をローンで購入
- ●車を通勤でも使用
- ●保険料はなるべく安く抑えたい
Bさんは新車をローンで購入したため、交通事故で車両が大破して乗れなくなったらローンだけが残ってしまいます。
また、Bさんは車を通勤で使用しており、交通事故で車が損害を負った場合、修理をするか車を買い替えるかの選択を迫られるでしょう。修理費用や買い替え費用にローンの返済が重なると、Bさんの家計に大きな負担となります。
もしBさんに子どもがいた場合、修理費用や買い替え費用の支払いで貯蓄が減ると、子どもを希望する学校に進学させてあげられないかもしれません。マイホームの購入を予定していた場合、貯蓄が減ることで購入時期が先送りとなる可能性もあります。
一方でBさんは、自動車保険の保険料をなるべく抑えたいと考えているため、保険料が割安であるエコノミー型の自動車保険に加入すると良いでしょう。
4-3 必要なケース~一般型の車両保険
- ●Cさん45歳
- ●海外メーカーの新車をローンで購入
- ●通勤でも使用
- ●都心に住んでいるため、補償をしっかりつけたい
Cさんは、国産よりも価格が高い傾向にある海外メーカーの新車を、ローンを組んで購入しているため、車を修理する場合の費用が高額になることに加えて、ローンを支払い続ける必要があります。
またCさんは、車を通勤で使用しているだけでなく、交通量が多く事故に遭いやすい都心に住んでいるため、車両保険の補償を手厚くする必要があると考えられます。
よってCさんのように、修理費用が高くなりがち、かつ交通事故のリスクが高い方は、補償範囲が広い一般型の自動車保険を付帯すると良いでしょう。
まとめ:車両保険に加入するときは必要性をしっかり検討しよう!
車両保険に加入していると、運転する車が交通事故に遭って損害を受けた場合に、修理費用や買い替え費用を保険金で賄えます。交通事故で車が損害を負った場合に、ご自身の貯蓄などで対処することが難しい場合や、ローンを組んでいる場合は、車両保険に加入していると安心です。
一方で価格の安い中古車に乗っている方や、修理費用を自己負担できる方などは、車両保険に加入する必要性は低いでしょう。
車両保険を検討する際は、交通事故に遭うリスクの高さや、車が損害を負った場合にご自身やご家族がどのように困るのかを第一に考えることが大切です。