遺される家族のために対策を。死亡保険金の税金はいくらかかるの?

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税金
遺される家族のために対策を。死亡保険金の税金はいくらかかるの?

家族が不慮の事故や病気などで亡くなった場合、遺族が保険金請求の手続きをしなくてはなりません。手続き自体は難しいことではありませんが、死亡保険金は契約者・被保険者・受取人の組み合わせ次第で課税される税金が異なります。相続の手続きにも追われる可能性がある中、いざというときに慌てないよう知識を蓄えておきましょう。

この記事では、死亡保険金にかかる税金や種類、非課税金額などを解説します。相続税が発生する場合の計算方法も併せて解説するので、ぜひ参考にしてみてください。

POINT
  • 保険の被保険者が死亡もしくは高度障害になった等、支払い事由が発生した場合は、まず保険会社へ連絡する必要がある。
  • 死亡保険金の受け取りには3年間の請求期限があるため要注意。
  • 死亡保険金にかかる税金は相続税・所得税・贈与税があり、契約者などの各条件により異なる。
  • 相続税は(1)課税遺産総額を法定相続分で分け、(2)各相続人分の相続税額を合算したのちに、(3)遺産の取得割合に応じて各相続人にかかる相続税を計算する。

死亡保険金を受け取るには?

封筒と書類

まずは、死亡保険金を受け取る際の手続きの進め方から解説します。葬儀や相続に関わる準備で慌ただしくなる恐れがあるため、あらかじめ頭に入れておくことをおすすめします。

死亡保険金を受け取る流れ

死亡保険金の請求には、さまざまな書類が必要になります。保険証券やその他の関連書類は日頃からまとめておくと、幾分スムーズになるでしょう。順を追って解説します。

(1)保険会社に連絡

手元に保険証券などを準備した上で、保険の契約者あるいは受取人が保険会社に連絡します。連絡方法は電話の他、保険契約者専用のWebサイト経由で連絡できる場合もあります。

■連絡した際に確認される項目(例)
  • 保険証券の番号
  • 被保険者の氏名
  • 保険支払事由が発生した日
  • 支払事由の原因(死亡原因など)
  • 保険金受取人の続柄、氏名、住所、連絡先など

※保険会社によっては上記以外にも確認項目がある場合があります。

(2)請求手続きのための各提出物一覧(保険会社によって異なる)

保険会社から、請求書と請求に必要な書類の説明が送られてきます。例えば、次のような書類です。

■請求に必要な書類の一例
  • 請求書
  • 被保険者(生命保険の対象者)の住民票
  • 受取人の個人事項証明書(戸籍抄本)
  • 受取人の印鑑証明書
  • 医師の死亡診断書または死体検案書
  • 保険証券 など

※保険会社によっては上記以外にも確認項目がある場合があります。

(3)保険金受取人による請求手続き

請求書に必要事項を記載し、必要な書類を添付した上で指定先に送付します。

(4)書類受付と審査

保険会社は、書類の受付・確認とともに死亡保険金の支払い可否を審査します。約款で定められた期限までに審査し、支払い可であれば速やかに保険金を支払います。

支払いは書類受領後から5営業日以内に完了するのが一般的ですが、保険会社によって異なるケースもあるため、保険金請求の際に保険会社へ確認しておくとよいでしょう。

(5)保険金の受け取り

保険金は指定の口座に振り込まれます。契約内容によって異なりますが、全額をまとめて受け取ることも、年金形式で受け取ることも可能です。なお、貸付金を借りたままで返済していない場合は、保険金から元金と利息が差し引かれます。

請求期限はあるの?

死亡保険金に限らず、保険の請求期限は「保険金を請求できるようになった日から3年間」であることが一般的です。これは保険法第95条「保険料積立金の払戻しを請求する権利は、これらを行使することができる時から3年間行使しない時は、時効によって消滅する」と定められていることに由来します。

請求期限が永久でない理由は、時間が経てば経つほど保険金の支払い対象となる事象を検証しにくくなり、適正かつ迅速な保険金の支払いができなくなる可能性が増すためです。

ただし、3年を過ぎても保険会社が支払いに応じる可能性はあります。やむを得ない事情等で3年経ってから請求漏れに気付いた場合は、諦めずに保険会社に問い合わせてみましょう。

出典:「平成二十年法律第五十六号保険法」(e-Govポータル)(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=420AC0000000056

死亡保険金にかかる税金

TAXと書かれた箱

死亡保険金にかかる税金は、「相続税」「所得税」「贈与税」のいずれかです。これは契約者・被保険者(生命保険の対象者)・受取人の組み合わせによって変わります。契約者を夫とした場合の3パターンを解説します。

(1)相続税がかかる場合

死亡保険の契約者と被保険者が同じで、受取人が異なる場合の死亡保険金は相続税の対象になります。亡くなった被保険者が保険料を負担していたため、「死亡保険金は財産である」と考えられるためです。死亡保険の契約者と被保険者が同じで、受取人が異なる場合の死亡保険金は相続税の対象になります。亡くなった被保険者が保険料を負担していたため、「死亡保険金は財産である」と考えられるためです。

契約の組み合わせ例
契約者・被保険者
受取人

遺された家族にとって、生命保険は生活の支えとなる重要な生活資金でしょう。そのため相続税法では、法定相続人(被相続人の配偶者、子、両親等の直系尊属、兄弟姉妹および代襲相続人)が死亡保険金を受け取る場合、税負担が軽減されるように考慮しています。

具体的には、死亡保険金を法定相続人が受け取る場合は、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠を使えます。また、相続税自体に基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」があり、相続財産がこの基礎控除内に収まる場合は相続税がかかりません。

(2)所得税がかかる場合

契約者と受取人が同じ場合は所得税の対象になります。

契約の組み合わせ例
契約者
被保険者
受取人

上記の例では、夫が保険料を払い込み、自らが死亡保険金を受け取ることになるため、「一時所得」または「雑所得」であると見なされます。

■一時所得が適用される場合

死亡保険金を一括で受け取る場合は一時所得になります。計算式は以下の通りです。

課税価格=(死亡保険金-総払込保険料-特別控除額 [最高50万円])× 1/2

特別控除額が50万円あるため、一時所得が50万円未満であれば課税されません。

■雑所得が適用される場合

死亡保険金を年金形式で受け取る場合には、公的年金等以外の雑所得が適用され、源泉徴収されます。計算式は以下の通りです。

課税価格=(年金の年額-年間の年金額に対する払込保険料)×復興特別所得税(10.21%)

ただし、上記の計算の結果、残額が25万円未満の場合には源泉徴収されません。

(3)贈与税がかかる場合

契約者・被保険者・受取人がそれぞれ異なる場合は贈与税の対象です。

下記の例では、保険料を負担していない子が保険料を負担していた父から死亡保険金を受け取ることになり、贈与が発生したと見なされます。

契約者
被保険者
受取人

贈与税には110万円の基礎控除があり、110万円を差し引いた額が課税価格となります。計算式は次の通りです。

課税価格=(死亡保険金-基礎控除110万円)×贈与税の税率-控除額
■贈与税の税率と控除額
基礎控除後の死亡保険金 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

贈与税は相続税よりも税率が高く設定されており、控除額が少なめである点に注意が必要です。

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm

受取人の選定がカギ

改めて、死亡保険金を受け取る際の税金の種類を確認しましょう。

契約者 被保険者 受取人 税金の種類
妻や子 相続税
妻や子 所得税(一時所得・雑所得)
贈与税

税金はお金を受け取るときに発生するため、受取人を誰にするかが重要です。3つのパターンでもっとも税負担が高い恐れがあるのは贈与税であり、逆にもっとも税負担が軽くなる可能性があるのは、基礎控除や生命保険の非課税枠が使える相続税です。

これから生命保険の加入を考えている方は、「誰にお金を残したいか」も重要ですが、税制上の観点も入れることをおすすめします。すでに契約している方でも、税負担の面から、受取人の変更手続きをしましょう。

受取人の指定

死亡保険金の受取人になれるのは原則、配偶者と2親等以内の血族である親族でしたが、近年は内縁関係にあるパートナーや同性パートナーを指定できる保険会社が増えています。

※保険会社によって異なります。

しかし、税金の負担を考慮に入れると、受取人には法定相続人を指定するほうが良いでしょう。法定相続人とは、民法で定められた被相続人(亡くなった方)の財産を相続できる方のことで、被相続人の配偶者と血族を指します。

■法定相続人と相続順位
第1順位 子(孫)
第2順位親(祖父母)
第3順位 兄弟姉妹(兄弟姉妹の子)

※配偶者は常に法定相続人 ※()は該当者がいない場合の代襲相続人

法定相続人を受取人に指定すれば、生命保険の非課税枠が使えます。「500万円×法定相続人の数」と設定されているため、配偶者と子が1人いる家庭では1,000万、子が2人いれば1,500万円が非課税になります。

配偶者税率軽減制度の活用

夫婦の財産は夫婦で築き上げたものであるため、夫婦間の相続では税負担を軽減する措置が設けられています。具体的には、配偶者が相続する金額のうち、「1億6,000万円」または「法定相続分」のどちらか高い金額までは相続税がかかりません。

配偶者の税額軽減が使える以上、生命保険の受取人は子にしたほうが、相続税を抑えられる可能性があります。例えば、6,000万円の現金と2,000万円の死亡保険金の計8,000万円を、遺された配偶者と子で4,000万円ずつ取得する場合をシミュレーションしてみましょう。相続税の詳しい求め方は後述するため、ここでは結果だけを表にまとめます。

■配偶者が受取人の場合
取得財産 相続税額
配偶者 現金:2,000万円 死亡保険金:2,000万円 (非課税枠を使い)0円
現金:4,000万円 210万円
■子が受取人の場合
取得財産 相続税額
配偶者 現金:4,000万円 (非課税枠を使い)0円
現金:2,000万円 死亡保険金:2,000万円 180万円

このケースでは、子を受取人にすると納める税金に30万円の差が生まれました。配偶者の税額軽減と保険金の受取人はセットで考えておくとよいでしょう。

相続財産を死亡保険金で受け取るメリット

相続財産を死亡保険金で受け取るメリットは、死亡保険の非課税枠を利用できることです。また原則、死亡保険金は遺産分割協議の対象外のため、トラブルの回避にも役立ちます。

生命保険には定期タイプと終身タイプとがあり、相続対策として考えるなら終身タイプが一般的です。非課税枠は定期タイプでも利用できますが、「定期」と付くように保険期間に限りがあります。相続はいつ発生するか分からないため、一生涯を保障する終身タイプの生命保険で備えておくほうが安心といえるでしょう。

終身保険には、保険料払込期間中の解約返戻金が低めに設定されている「低解約返戻金型保険」や、株式や債券を取り入れて運用する「変額保険」、ドルやユーロといった外貨で運用する「外貨建保険」などさまざまな種類があります。自分に適しているものはどの保険なのか、十分に調べた上で活用しましょう。

相続税がかかる場合の計算方法

電卓と書類

相続税の計算は税理士に依頼するケースが多いかもしれませんが、計算方法の基礎を押さえておいても損はないでしょう。ここでは、相続税における計算式や計算手順を具体例とともに解説します。

死亡保険金の非課税金額

死亡保険金の非課税枠を利用できるのは法定相続人に限られます。相続放棄をした方は非課税枠を利用できませんが、非課税枠の計算には相続放棄をした法定相続人も含めます。

計算式は「500万円×法定相続人の数」なので、配偶者と子2人の場合は1,500万円が非課税枠です。子2人のうち、1人が相続放棄をしても1,500万円で変わりません。

非課税枠の配分は死亡保険の額に応じて決まる仕組みです。死亡保険3,000万円のケースでは、配偶者が2,000万円、子2人がそれぞれ500万円の死亡保険金を受け取った場合、配偶者は1,000万円、子はそれぞれ250万円が非課税になります。死亡保険金の総額3,000万円-非課税枠1,500万円で、1,500万円が課税対象です。

課税金額の計算

死亡保険金を含め、課税対象となる金額を求めます。計算の手順は次の通りです。

(1)相続財産を合計する

被相続人から相続した財産の総額を明らかにします。財産は現金や死亡保険金だけとは限らず、不動産、有価証券、宝石、特許権、著作権など多岐にわたります。中には未返済の借入金など、マイナスの財産もあるでしょう。それらを全て合計したものが、正味の遺産総額です。

(2)基礎控除を差し引く

相続税の基礎控除は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。遺産総額が基礎控除を下回っていれば、相続税はかかりません。

基礎控除を差し引いて残ったものが、課税遺産総額です。

(3)1人あたりの法定相続分で按分する

基礎控除を差し引いて求めた課税遺産総額を、「法定相続分」という法律上で取り決められた割合に基づいて按分します

■法定相続分

■法定相続分
相続人 法廷相続分
子がいる 配偶者 1/2
第1順位(子) 1/2(※)
子がいない 配偶者
第2順位(両親など) 1/3(※)
子も祖父母もいない 配偶者
第3位(兄弟姉妹など) 1/4(※)

※複数の場合は人数で分配

では、相続財産の合計額1億円を、配偶者と子2人が相続するケースをシミュレーションしてみます。課税遺産総額は、1億円- 基礎控除額(3,000万円+600万円×3)で5,200万円です。

5,200万円を法定相続分で按分します。

  • 配偶者:5,200万円×1/2=2,600万円
  • 子2人:5,200万円×1/2×1/2=各1,300万円

相続税の計算方法

法定相続分で按分した金額をもとに仮の相続税額を算出します。

■相続税の速算表
法廷相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm

  • 配偶者: 2,600万円×税率15%-控除額50万円=340万円
  • 子2人:1,300万円×税率15%※)-控除額50万円=各145万円
  • 合計:340万円+(145万円×2)=630万円

各人の納付すべき相続税額の計算方法

上記で最後に求めた630万円を、実際に相続した相続割合で按分する のが最後の計算です。遺産総額1億円を、配偶者が5,000万円、子の1人が3,000万円、もう1人の子が2,000万円を取得した場合を計算します。

  • 配偶者:630万円×50%=315万円
  • 子1:630万円×30%=189万円
  • 子2: 630万円×20%=126万円

上記がそれぞれの相続税です。ただし、配偶者は税額軽減を利用できるため相続税はかかりません。

また、一定の要件を満たすと配偶者の税額軽減以外の控除も受けられます。例えば「未成年者控除」や「障害者控除」「相次相続控除」「外国税額控除」などです。宅地(土地)を取得している場合は、「小規模宅地等の特例」を使って評価額を減額できることもあります。

まとめ

死亡保険金を受け取る際に課税される税金は、契約者・被保険者・受取人の組み合わせによって変わります。相続税・所得税・贈与税とでは納税額に差が出るため、これから加入される方は慎重に決めることをおすすめします。

また、死亡保険金の受取人を法定相続人にしている場合、基礎控除と合わせて死亡保険の非課税枠を使用できます。「500万円×法定相続人の数」と大きな枠が用意されているため、納税の観点から契約者の組み合わせパターンを考えるのも一つの手です。いざというときに備え、死亡保険の金額や受け取り方を見直しておきましょう。