相続税の税率と計算方法は? 負担軽減策の数々や申告に必要な書類まで合わせて解説!

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相続税の税率と計算方法は? 負担軽減策の数々や申告に必要な書類まで合わせて解説!

「親の財産を相続した場合、どれだけの相続税がかかるのだろう」「相続税の計算方法や納め方がわからない」と不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

相続税の計算方法について事前に調べて対策をしていないと、多額の相続税が発生するかもしれません。また、相続においては誰がどのように遺産を相続するのか揉めてしまう”争族”となることもあります。

例えば、亡くなった人に子供が3人おり、そのうちの1人が故人の介護をしていた場合「相続する財産を多くして欲しい!」と要求するかもしれません。兄弟の仲が良ければこのような意見も通る可能性がありますが、仲が悪ければスムーズにいかないケースもあるでしょう。

そこで今回は、相続税の計算方法や納税方法はもちろん、相続税の負担を軽くする方法までをお伝えします。事前に相続税の計算方法を知ることで、相続税の負担を抑えられるだけでなく、争族にならずにスムーズに相続の手続きを終えられるため、ぜひ最後までご一読ください。

1.相続税とは? どんなときに誰が払わなければならない?

「相続税」という言葉は誰もが一度は耳にしたことがあると思います。まずは相続の基本的な仕組みについて解説していきましょう。

1-1 相続はいつ発生する? 相続人と法定相続分の関係は?

相続とは、人が死亡したときに財産が継承されることです。なお、死亡したときだけでなく、一定期間生死が不明で失踪したと公的機関に認定された場合も相続の対象になります。

ある家庭において夫が亡くなった場合、妻や子供に夫の財産が継承されます。このとき、死亡した夫を被相続人、財産を継承できる妻や子供を相続人と言います。民法で定められた相続人を法定相続人と言い、被相続人の配偶者は常に法定相続人となる決まりです(正式な婚姻関係がある場合のみ)。

法定相続人と相続される財産の割合(法定相続分)は、以下の相続順位に従って決まる仕組みです。

相続順位と法定相続分

もし第1順位に相当する人がいない場合は第2順位の人に、第2順位にあたる人もいない場合は第3順位の人に相続されます。なお、相続の開始時に被相続人の子供が死亡していた場合は、子供の子供(孫)が代襲相続人となります(法定相続分は子と同じ割合である1/2)。

また、遺言によって特定の人に財産を移転させることが可能です。これを遺贈と言い、相続よりも優先されることが法律で規定されています。

ただし、配偶者や父母、子供、代襲相続人となった孫以外に財産が継承される場合、相続税額の2割加算が適用されます。兄弟姉妹が相続した場合や、代襲相続人でない孫に遺贈した場合は、相続税額の2割に相当する金額が加算されて相続税の負担が上昇するため注意しましょう。

1-2 相続は承認せずに放棄することもできる

遺産を相続する場合は、相続人には以下の選択肢があります。

  • 単純承認:財産が無条件ですべて承継されること
  • 限定承認:被相続人のプラスの財産の範囲内でマイナスの財産(債務)も承継すること
  • 相続放棄:相続そのものを放棄すること

相続人は、自分が相続人であると知った日から3ヶ月以内に限定承認や相続放棄の手続きを取らなかった場合や、相続財産の一部もしくは全部を処分した場合は、単純承認したものとみなされます。

限定承認は、被相続人の借金(債務)が相続人の財産よりも多い債務超過の場合に行うのが一般的です。例えば、相続財産が300万円、相続債務が2,000万円だった場合、300万円を相続人が返済することで、1,700万円の債務を相続しなくて良くなります。

相続放棄は、相続人の一人が単独で行うこともできますが、一度相続放棄をすると撤回できません。

1-3 相続税がかかる財産とかからない財産

遺産を相続した場合、相続した遺産の額に応じて相続税を納めなければなりません。相続税の対象となる財産には以下のようなものがあります。

  • ●金融資産や不動産、芸術品(絵画・骨董品など)
  • ●みなし相続財産:死亡保険金や勤務先から支払われた死亡退職金
  • ●生前贈与加算:相続が開始される3年以内に贈与された財産
  • ●相続時精算課税制度で贈与された財産

贈与税は、贈与金額が1年間で合計110万円(基礎控除額)以下であればかかりません。しかし生前贈与加算は、この基礎控除額である110万円以下の範囲で贈与された財産も対象となります。ただし相続が開始される3年以内に贈与された財産のうち、基礎控除額を超えたために支払った贈与税分の財産は、相続税の課税対象額から控除されます。

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母が、20歳以上の子や孫に財産を贈与する場合、2,500万円まで贈与税がかからなくなる制度です。その代わり、相続時精算課税制度で贈与した財産は相続発生時に相続財産に加算され、相続税の対象となります。この制度についての詳細は3-3-2をご覧ください。

一方で以下のような財産には、相続税が課税されません。

  • ●墓地、祭壇、仏具、祭具
  • ●勤務先から受け取った弔慰金や花輪代
  •  ※業務上の死亡は普通給与×36ヶ月分、業務以外での死亡は普通給与×6ヶ月が上限
  • ●葬儀費用:通夜、告別式、火葬などにかかった費用
  • ●死亡保険金や死亡退職金の非課税枠 など

相続税を計算するときは、相続税の課税対象となる財産の額から葬儀費用や非課税枠を差し引いて算出します。

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1-4 遺産の分割方法は?

遺言によって遺産の分割が指定されていない場合、実際に遺産をどのように分割するかは、相続人の間で遺産分割協議を行って決める必要があります。

分割方法は、以下の3種類です。

  • 現物分割:遺産を現物のまま分割する方法
  • 換価分割:遺産を売却して得た金銭を相続人で分割する方法
  • 代償分割:相続人の一人が法定相続分を超える遺産を取得する代わりに他の相続人に対して超過分に相当する金銭を支払う方法

遺産分割協議が整ったあとは、遺産分割協議書に相続人全員が署名捺印をします。しかし遺産分割協議はスムーズにいかないケースも多いのです。

「配偶者は不動産、長男は現金」のように現物分割ができると、最も手間がかかりません。一方で現物分割は、均等に分割できないことも多いです。加えて遺産の中に不動産が含まれている場合、換価分割では買い手を見つけるのに苦労し、本来の価値よりも低い金額での売却を余儀なくされることがあります。

また、不動産を含む代償分割では、法定相続分を超えて遺産を取得する人が、他の相続人に対してお金を支払えるほどの金銭的余力がなければなりません。

このように、亡くなった後に遺産の分割を協議すると、分割方法で揉めてしまう可能性が高くなります。そこで、生前に誰に何を相続するかを、家族で話し合って決めておく必要があるのです。

2.相続税の計算方法をザックリ解説!

第1章では相続の仕組みと課税対象になる財産を簡単にお話しました。では、相続税は実際にはいくらくらいになるのでしょうか。

相続税の計算は複雑に感じられるかもしれません。でも、ここでご紹介する順番で計算していけば、それほど難しいものではありません。1つずつ確認していきましょう。

ステップ1:各相続人の課税価格の合計額

まずは、被相続人の財産のうち相続税の課税価格を計算します。仮に、妻と子供2人(長男・長女)の合計3人の法定相続人が、以下のように財産を分割して相続したとしましょう。

相続財産の分割

第3章で詳しく説明しますが、生命保険の死亡保険金は、法定相続人の数×500万円まで非課税となります。このケースの場合は法定相続人が妻・長男・長女の3人ですので、1,500万円(3人×500万円)まで非課税となります。そのため、長男が受け取った死亡保険金のうち課税の対象となるのは、非課税枠を差し引いた残りの500万円です。

さらに、妻が負担した借金や葬儀費用、医療費の未払い分、賃貸物件の預かり金などは債務控除の対象となり、相続財産から差し引けます。

以上の点を踏まえると、相続税の課税価格は、以下の通りです。

  • 妻:1,800万円+1億円-1,000万円=1億800万円
  • 長男:1,000万円+1,200万円+(2,000万円-1,500万円)=2,700万円
  • 長女:2,200万円+2,300万円=4,500万円

よって、課税価格の合計額は、1億800万円+2,700万円+4,500万円=1億8,000万円となります。

もちろん、分割前の相続財産総額2億500万円から死亡保険金の非課税枠1,500万円と債務1,000万円を引いても課税価格である1億8,000万円は算出できますが、あとで相続税を計算するときに各相続人の課税価格がキーポイントになるので、上記のように計算しておきます。

ステップ2:基礎控除を差し引いた課税遺産総額

相続税は、課税価格のすべてが課税の対象になるのではなく、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算された金額は基礎控除として課税の対象外となります。

法定相続人が3人の場合、基礎控除は4,800万円となり、課税遺産総額は以下のようになります。

  • 課税遺産総額=相続税の課税価格-基礎控除額(3,000万円+600万円×3人)
  • =1億8,000万円-4,800万円
  • =1億3,200万円

ステップ3:各相続人の仮の相続税と相続税総額

課税遺産総額が算出できたら、その金額を各相続人の法定相続分で分割して、仮の相続税を計算します。そして、3人の仮の相続税の合計が相続税総額となります。

まずは課税遺産総額を、1-1で説明した法定相続分で案分します。このケースの法定相続分は、配偶者と子供が1/2ずつですので、妻=1/2、長男=1/4、長女=1/4となります。

  • 妻:1億3,200万円×1/2=6,600万円
  • 長男:1億3,200万円×1/4=3,300万円
  • 長女:1億3,200万円×1/4=3,300万円

次に上記で求めた各相続人の金額に、所定の税率をかけて仮の相続税額を算出します。相続税の税率は、所得税や法人税と同じように、課税の対象となる金額に応じて以下のように税率と控除額が変わる仕組みです。

相続税の税率

上の表を元に、それぞれの仮の相続税額を計算していきましょう。

  • 妻:6,600万円×30%-700万円=1,280万円
  • 長男:3,300万円×20%-200万円=460万円
  • 長女:3,300万円×20%-200万円=460万円

よって、相続税総額は、1,280万円+460万円+460万円=2,200万円となります。

ステップ4:各相続人の相続税額

ステップ3では財産を法定相続分で分割したと仮定して相続税が計算されていますので、これを実際に相続した金額に合わせて調整する必要があります。そのため、〔課税価格に対する実際に相続した金額〕に従って算出された相続税総額を案分し、各相続人の相続税額を計算していきます。

  • 妻の相続割合:1億800万円/1億8,000万円=0.6
  • 長男の相続割合:2,700万円/1億8,000万円=0.15
  • 長女の相続割合:4,500万円/1億8,000万円=0.25

  • 妻の相続税額:2,200万円×0.6=1,320万円
  • 長男の相続税額:2,200万円×0.15=330万円
  • 長女の相続税額:2,200万円×0.25=550万円

以上で、それぞれの相続税額が計算できました。

ステップ5:各相続人の納付税額

課税価格が1億8,000万円あるケースだと、「相続税はそれなりの金額になるな……」と感じる方も多いのではないでしょうか。

しかし、配偶者が納付する相続税には「配偶者の税額軽減」が適用されて、通常はステップ4で計算した金額よりも少なくなります。

具体的には、配偶者が相続した財産(課税価格)が、課税価格総額の法定相続分もしくは1億6,000万円のうち多いほうの金額以下であれば相続税額がまるまる軽減されて0円となり、相続税を負担する必要はありません。配偶者の相続税は「相続財産が法定相続分以下、あるいは1億6,000万円以下なら非課税」と覚えておけばいいでしょう。

  • 課税価格の法定相続分=1億8,000万円×1/2=9,000万円
  • 相続財産(課税価格)=1億800万円<1億6,000万円
  • 妻の納税額=0円

長男と長女においては、ステップ4で計算した金額をそのまま納税します。そのため、この家族が納税すべき相続税は合計で880万円となります。

3.相続税の負担を軽くする方法は?

前章までで相続税の計算方法の大枠をつかんでいただけたと思います。相続税の負担は相続する財産が多いほど重くなりますが、非課税枠や特例などを利用することで負担の軽減が可能です。ここからは相続税の負担を軽減できる方法について順番に解説していきましょう。

3-1 生命保険の死亡保険金には非課税枠がある

生命保険の死亡保険金は、法定相続人の数×500万円まで相続税がかかりません。そのため、資産の一部を使って生命保険に加入することで相続税の節税が可能です。

例えば、法定相続人が3人で3,000万円の財産を相続する場合、現金や有価証券で相続すると、全額が相続税の課税対象となります。一方で3,000万円の死亡保険金を受け取った場合、以下のように1,500万円だけが相続税の課税対象となります。

  • 死亡保険金の非課税枠=3人×500万円=1,500万円
  • 相続税の課税対象額=3,000万円-1,500万円=1,500万円

加えて死亡保険金は、受取人固有の財産とされているため、遺産分割協議の対象にもなりません。つまり、自分が遺したい人にそのまま受け取ってもらうことができるのです。保険金という形で財産を残すことで、遺産分割協議で相続人が揉めるリスクを回避できます。

相続税対策で生命保険に加入する場合は、終身保険のような保障期間が一生涯の保険に加入すると良いでしょう。保障期間が一定期間である定期保険では、保障期間を超えて長生きすると、保障が継続できなくなるだけでなく、死亡保険金が支払われません。そして、そもそも定期保険は保険料も掛け捨てであるため、相続税対策にならないからです。

ただし終身保険は、最近では利回りが低く、ひと昔前のように資産運用の手段としては活用しにくい点に注意しましょう。加えて、相続税対策としてよく利用されていた、円建ての一時払い終身保険を売り止めにする保険会社が相次いでいます。

現在販売されている終身保険は、保険料を支払ったあとに保険会社がドルなどの外貨で運用する外貨建て終身保険が多いようです。外貨建て終身保険は、円建てよりも仕組みが複雑で為替リスクも存在するため、よく説明を聞いて理解・納得したうえで加入しましょう。

外貨建て保険については「外貨建て保険とは? 円建て保険と何がどう違う? 特徴をわかりやすく解説!」でも詳しくご説明していますので、合わせてご確認ください。

3-2 小規模宅地等の特例で不動産が最大8割引きに!

「小規模宅地等の特例」とは、個人が住居用として利用した土地や事業を営んでいた土地などにおいて、土地の相続税評価額が50~80%減額できる制度です(限度面積あり)。

例えば、相続した4,000万円の宅地であれば、相続税の計算時に価値が800万円として計算されます。適用条件は、故人と相続人が暮らしていた土地で、以降も相続人が住み続ける場合です。

  • 居住用宅地の相続税評価額=4,000万円-(4,000万円×80%)=800万円

土地の評価額が下がることで、相続時の課税対象となる財産の価格が下がって、相続税の負担を軽減できるのです。

相続財産が不動産だけで相続税額が高額になる場合、相続した土地や建物を売却しなければ相続税の支払いが難しくなることがあります。もし、相続した住居に引き続き住み続ける予定だった場合は、住宅を売却するとその後の生活に支障が出てしまいかねません。

そこで、一定の条件を満たした宅地を相続する場合は、小規模宅地等の特例が適用されて、相続税の課税対象になる額が減額されます。

小規模宅地等の特例が適用される土地の種類や減額率は、以下の通りです。

小規模宅地等の特例

限度面積を超える場合は、限度面積までに上記の減額率が適用され、超えた部分は通常の評価額となります。

注意点としては、親と別居している子供が宅地を相続する場合も、子供が持ち家を所有しておらず、相続後にその宅地に住めば小規模宅地等の特例が適用されるのですが、子供が持ち家を購入して住んでいると利用できないことです。

3-3 生前贈与を活用する

「生前贈与」とは、生きているうちに財産を第三者に渡すことです。生前贈与を活用することで相続財産を圧縮し、相続税の負担を軽減できます。

例えば、1億5,000万円の財産を持っている場合、そのまま相続すると1億5,000万円すべてが相続税の対象です(相続税の基礎控除は考慮せず)。そこで、生前贈与によって5,000万円の財産を生きているうちに無償で渡すことで、相続財産が1億円まで減って相続税の負担を軽減できます。

しかし、財産を他人に贈与する場合は、贈与税が発生するため注意しなければなりません。贈与税は、毎年1月1日から12月31日の間で贈与された金額が基礎控除額である110万円を超えた場合に発生します。

相続税の負担を軽減しようとしても、高額の贈与税の負担が発生したのでは、節税効果は得られません。贈与税の負担を抑えるには、非課税枠や特例などを上手に活用する必要があります。そこで、贈与税を軽減させるためのいくつかの方法をご紹介していきます。

3-3-1 暦年贈与

「暦年贈与」とは、毎年1月1日から12月31日の間に、贈与税がかからないように基礎控除額の110万円以内の贈与を行うことを言います。

例えば、父親から20歳以上の息子に1,000万円のお金を一括で贈与すると177万円の贈与税が発生します。そこで毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与すると、贈与税がかかることなく資金を贈与できます。

ただし、毎年同じタイミングで同じ金額のお金を贈与すると定期贈与とみなされて、贈与額が110万円以下であっても、贈与税の課税対象とされる場合があります。そのため、定期贈与とみなされないように、贈与するときはその都度贈与契約書を作成し、渡す時期や金額もできるだけ同じにならないようにすると良いでしょう。

3-3-2 相続時精算課税制度

「相続時精算課税制度」とは、文字通り「生前贈与を相続時に精算する」という制度で、これを利用すると2,500万円に達するまで何度でも非課税で贈与できます。贈与する時期に制限はありませんので、一度に2,500万円でも、10年間にわたって250万円ずつ贈与しても適用できます。

受け取った財産はすべて贈与した人の死亡時に相続税の課税対象となりますが、遺産の総額が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の範囲内であれば、相続税は課税されません。

相続時精算課税を利用して、将来値上がりする可能性の高い財産をあらかじめ子や孫に贈与しておくことで、相続税の負担を抑えられる可能性があります。例えば、贈与したときに300万円の価値がある有価証券が相続時に500万円に増えていても、相続税の計算時には贈与時の価値である300万円のまま計算されるのです。

ただし、相続時精算課税制度での贈与は、2,500万円を超えた分については一律20%の税率で計算した贈与税が発生する点に注意しましょう。また、一度選択すると暦年贈与に戻せません。さらに、たとえ宅地を贈与していなくても、相続時に3-2で解説した小規模宅地等の特例が使えなくなりますので、利用する際には慎重に検討しましょう。

3-3-3 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

以下の要件をすべて満たしたうえで、配偶者が居住用の不動産を贈与された場合、基礎控除額の110万円に加えて2,000万円=2,110万円までの贈与が非課税となります。

  • ●戸籍上の婚姻関係が20年以上の夫婦間で発生した贈与
  • ●国内にある居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭の贈与
  • ●贈与した翌年の3月15日まで居住し、その後も居住を継続する見込みであること

なお、贈与税の配偶者控除が利用できるのは、同一夫婦間で一生に一度だけです。

3-3-4 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

父母や祖父母などの直系尊属から、住宅の購入や増築などを目的に資金提供を受けた場合、基礎控除額110万円に加えた一定金額に対して贈与税がかからなくなる制度です。

非課税となる金額は「耐震、省エネまたはバリアフリーの住宅用家屋」が1,000万円、「その他の住宅用家屋」が500万円となります。

ただし、住宅取得等資金贈与の特例を利用するには、住宅の床面積や居住用に利用する割合など一定の要件を満たさなければなりません。また、持ち家を購入して住み始めると、実家を相続する場合に小規模宅地等の特例が利用できなくなり、相続税の負担が上がる可能性があります。

3-3-5 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税

父母や祖父母などの直系尊属から子や孫に教育資金を贈与する時に、最大で1,500万円まで贈与税が非課税となる制度です。

教育資金の贈与、平たく言えば親が負担する子供の学費は、この非課税制度を利用しなくても非課税ですが、原則的にはお金が必要になったタイミングでその都度贈与(負担)しなければなりません。そこで、この制度を利用することで、まとまったお金を非課税で贈与できるようになります。

贈与された教育資金は、学校等に直接支払われる入学金や授業料だけでなく、塾や習い事のような学校以外のものに支払われる費用も500万円まで充てることが可能です。

ただし、教育資金以外の目的でお金を利用した場合や、贈与された人が30歳になった時点でどこにも在学しておらず、口座に残額がある場合などは、その分に対して贈与税がかかります。また、贈与者が亡くなったときに所定の条件に該当すると、口座の残額が相続税の課税対象になる場合があります。

3-3-6 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税

父母や祖父母などの直系尊属から結婚や子育てのための資金提供を受けた場合、最大で1,000万円(結婚は300万円)まで非課税になる制度です。

この非課税制度を利用するには、教育資金の一括贈与非課税制度と同じく、金融機関で専用の口座を開設しなければなりません。さらに、贈与者が亡くなると、その時点で口座に残っている金額が相続税の対象となります。

4.具体的な手続きと納税方法は?

相続が発生するということは、肉親に不幸があったときです。ただでさえ心身ともにつらい時期に税金のことも考えるのは余計につらいことですが、その負担を少しでも和らげるために、相続の大まかな仕組みだけでも頭に入れておくのは、けっしてムダなことではありません。最後に、いざ相続が発生したときの具体的な手続きについて簡単に触れておきます。

4-1 相続税はいつまでに納めればいい?

相続税の申告と納付の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。仮に2021年5月31日に亡くなったことを知った場合は、2022年の3月31日が申告と納付の期限となります(10ヶ月後が土日祝日だった場合は、翌日以降の平日が期限)。

相続税を申告・納税する場所は、被相続人(故人)の住所地を管轄する税務署です。被相続人と相続人が離れて暮らしている場合、相続人は被相続人の住所地の税務署まで出向かなければならないため、時間と費用がかかることがあります。

相続税の納税は、税務署が発行した納付書を金融機関の窓口へ持参して行うのが一般的です。納付書があれば、金融機関以外にもコンビニエンスストア税務署の窓口などで納付できます。ただし、コンビニエンスストアは、納付額が30万円までです。

また、相続税はクレジットカードを利用して、インターネットから24時間納付できるようになりました。ただし、納付額に応じた決済手数料がかかる点や、領収書が発行されない点に注意しましょう。

もし申告期限までに相続税を納めなかった場合は、小規模宅地等の特例のような相続税を軽減する制度が利用できなくなります。加えて、無申告課税重加算税、延滞税のようなペナルティが発生するため、必ず期限内に申告と納税を済ませましょう。

被相続人が亡くなったあとは、通夜や葬式などに追われ忙しくなります。また、相続税額の計算においては、土地評価額の計算が難しく時間や手間がかかってしまいます。そのため、相続税を正確に申告・納税するには、税理士のような専門家の力を借りるとよいでしょう。

4-2 相続税申告に必要な書類は?

相続の際に必要となる書類は多岐にわたるため、集めるのに時間がかかります。状況にかかわらず、以下6つの書類は必要となります。

相続税申告に必要な書類

上記に加えて、金融機関の口座残高証明書、不動産がある場合は固定資産評価証明書登記事項証明書など、借入金がある場合は金銭消費貸借契約書借入金残高証明書などが必要です。

また、被相続人の戸籍謄本は、すべての相続人の存在を証明できるように、出生から死亡まで連続していなければなりません。戸籍は故人の本籍地に保管されており、また請求して初めて故人に複数の戸籍があることが分かる場合もあり、戸籍の収集だけで数ヶ月かかるケースも珍しくありません。

10ヶ月という期限内で相続税の申告・納付手続きを終わらせるためにも、書類の収集は可能な限り早めに取り掛かりましょう。

まとめ:相続税対策は早めに着手しておくべき

相続税は、さまざまな非課税枠や特例を利用することで負担を軽減できます。しかし、そのほとんどの方法が、財産を残す人が生きている間しかできないことばかりです。

また、相続の開始後にスムーズに手続きを終わらせるためには、どのような書類をどこに提出する必要があるのかを事前に確認しておくことが必要でしょう。何より、遺産の分割で揉めないように、親や祖父母が元気なうちに、家族でしっかり話し合っておくことが大切です。

相続は、一生のうちに何度も経験するものではありません。そのため相続について、少しでも分からない部分があれば、コンサルティングアドバイザーやファイナンシャルプランナー、税理士のような専門家の力を借りると良いでしょう。