「病気やケガで働けなくなった…」「長期入院中の生活費はどうする?」「有給がないから会社を休めない!」このような収入に対する不安を抱える方は少なくありません。
「傷病手当」は、病気やケガで仕事を休んだ際の給与保障制度です。加入する健康保険や雇用保険から支給されますが、受給には細かな条件があります。申請方法や受給期間も保険によって異なるため活用するには詳細を調べなければなりません。
そこで本記事では、傷病手当金の仕組みから申請方法、注意点を詳しく解説します。特に「現在治療中で休職を考えている方」「長期療養が必要になりそうな方」は、ぜひ最後までご一読ください。
目次
傷病手当金とは「病気やケガに対する保障」のこと
傷病手当とは、病気やケガを原因として収入が不安定になったり、絶たれたりした方に向けた所得保障制度のことです。両方とも社会保障制度として国が運営しています。
- 雇用保険の傷病手当:厚生労働省が管轄する雇用保険制度の一部
- 健康保険の傷病手当金:健康保険制度(公的医療保険制度)の一部
雇用保険の傷病手当は、求職申込み後の傷病を対象とし、失業中に病気やケガで15日以上就職活動ができない場合に受給できます。支給額は基本手当の日額と同額となります。
一方、健康保険の傷病手当金は在職中の制度で、病気やケガで連続して3日間休んだ後、4日目以降の休職期間に対して支給されます。
「失業中」と「在職中」という状態に同時にはなりえないため、制度上も重複受給はできません。
ここからは、在職中を基本とした「傷病手当金」についてお伝えします。
出典:全国健康保険協会ホームページ(傷病手当金)(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271/)、出典:ハローワークインターネットサービス(基本手当について)(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html)
メリット
傷病手当のメリットは、収入が途絶えた際の生活保障を得られることです。当面の生活費の心配がなくなるため治療に専念できる環境が整うでしょう。
また、傷病手当金は非課税所得として扱われ、その年度の所得税や住民税は課税されません。ただし、住民税の納付は『前年の所得』に対して、翌年6月から翌々年5月の納税となります。
つまり、
- 2023年の所得 → 2024年に
- 2024年の所得 → 2025年に
というように後から納税する形式となっているため、現在の年度で給与所得が発生していなくても、昨年を対象に納税義務が発生する点に注意しましょう。
なお、障害年金や労災保険などと併用できる場合もありますが、基本的に優先されるのは傷病手当です。障害年金より傷病手当が低く設定されている場合は障害年金が満額受け取れません。
出典:全国健康保険協会ホームページ(傷病手当金)(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271/)、総務省(個人住民税)(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/150790_06.html)
デメリット
傷病手当金のデメリットは、給与の全額を補えない点です。
支給額は、支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額の3分の2(1日あたり)に設定されているため、通常の給与と比べると収入が減少します。有給休暇が残っている場合は、まずそちらを使う方が経済的によいケースは多いです。
また、申請手続きには医師の診断書や事業主の証明など、各種書類が必要です。手続きが煩雑になるほか、病気やケガの状態を会社に開示することに抵抗を感じる方もいるでしょう。
加えて、傷病手当金には3日間の「待期」があり、4日目以降から支給が開始されます。また、任意継続被保険者の方は原則として支給を受けられませんが、健康保険法第104条による継続給付の要件を満たしている場合は例外となります。
なお、支給期間は令和4年1月1日より、支給開始日から通算して1年6ヵ月となっています。
出典:全国健康保険協会ホームページ(傷病手当金)(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271/)
各種保険における傷病手当がもらえる・もらえないケース
傷病手当は加入している保険の種類によって受給できる条件が異なります。健康保険組合や協会けんぽに加入している会社員・パート社員は、一般的な傷病手当金を受給できます。
一方で、国民健康保険の加入者は原則として受給できませんが、例外的なケースもあります。
また、雇用保険からも一定の条件下で傷病手当が支給されるケースや、障害年金との併給も状況によっては可能な場合があります。
詳しくはこちら:傷病手当金「もらえないケースはある?」支給の4条件と併せて解説
傷病手当金が支給される条件
健康保険の傷病手当金を受給するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 全国健康保険協会の被保険者であること(※)
- 病気やけがのために働くことができず、会社を休んだ日が連続して3日間あること
※任意継続被保険者は原則として対象外ですが、健康保険法第104条による継続給付の要件を満たす場合は除きます
傷病手当金は4日目以降の休業について支給されますが、以下のような場合は支給額の調整が行われます。
- 休んだ期間について給与の支払いがある場合(※1)
- 労災保険から休業補償給付を受けている場合(※2)
- 障害厚生年金、障害手当金、または老齢退職年金を受けている場合(※3)
※1…給与の日額が傷病手当金の日額より少ない場合は差額が支給されます。※2…休業補償給付の日額が傷病手当金の日額より少ない場合は差額が支給されます。※3…それぞれ定められた調整規定があります。
なお、支給される金額は、支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額の3分の2(1日あたり)となります。
出典:全国健康保険協会ホームページ(傷病手当金)(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271/)
傷病手当金が支給される期間
傷病手当金の支給期間は、休業開始から最初の3日間を待機期間とし、4日目以降から最長1年6ヶ月です。受給開始日がいつであるかによって、支給期間は以下のように異なります。
【変更後】(令和2年7月2日以降に開始)
- 実際に支給を受けた日数を合計して1年6ヶ月分まで受給可能
- 例:途中で一時的に復職しても、その期間は支給日数にカウントされない
- その結果、実質的に受給できる期間が延び、より柔軟な治療計画が立てられる
例えば、『6ヶ月治療→3ヶ月復職→また具合が悪くなって治療』というケースでは、変更前は復職期間も含めて1年6ヶ月でストップしていましたが、変更後は復職期間は除いて、実際の療養期間が1年6ヶ月になるまで受給可能です。
このように、変更後は実際に休職している期間のみがカウントされるため、より長期的な治療と仕事の両立がしやすくなりました。
傷病手当金の支給金額・計算方法
傷病手当金の金額は、直前の標準報酬月額(給与)に基づいて計算します。以下では、例を用いて支給金額と計算方法を説明します。
支給金額
傷病手当金の支給金額は1日あたりの計算となり、支給開始日前12ヶ月間の標準報酬月額の平均額を基に算出します。12ヶ月に満たない場合は、継続した各月の標準報酬月額の平均額か、全被保険者の標準報酬月額の平均額(30万円)のいずれか低い額を使用します。
なお、以下のケースでは支給額の調整がおこなわれます。
- 支給金額が給与支払いと重複する場合
- 障害厚生年金や労災保険の休業補償給付などと重複する場合
計算方法
傷病手当金の支給額は、直近の給与水準に近づけられるよう標準月額報酬を用いて計算されます。具体的な傷病手当の計算方法は、以下のとおりです。
- 支給開始日前12ヶ月間の標準報酬月額の平均を算出
- その金額を30日で割り、1日あたりの基準額を計算
- 基準額における3分の2を1日あたりの支給額とする
(例)標準月額報酬が30万円の場合、1日あたりの支給額は約6,600円(30万円÷30日×2/3)
ただし、勤務期間が12ヶ月未満の場合は、次のいずれか低い方が基準額となります。
- 支給開始日の属する月以前に継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 30万円(支給開始日が平成31年4月1日以降の場合※)
※当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額
また、他の保険給付(障害厚生年金や労災保険など)を受給している場合は、給付額との調整がおこなわれて差額支給となる場合もあります。前年度9月30日における全被保険者の標準報酬月額の平均額も考慮されるため、休業前の収入に応じた保障額が受けられるでしょう。
傷病手当金の申請方法
申請から受給までは以下の手順で進んでいきます。
- 医療機関で診断書を取得
- 健康保険傷病手当金支給申請書の準備
- 必要書類の確認と添付
- 申請書の提出と診査
傷病手当金の請求期限は2年と短いため、申請は速やかにおこないましょう。
申請に必要な書類
傷病手当金の申請には、主に『診断書』と『健康保険傷病手当金支給申請書』の2つの書類が必要です。
ただし、添付書類は申請者の状況によって異なります。
傷病手当金を受給中の保険料はどうなる?
傷病手当金を受給中の保険料については、支払いが『必要なもの』と『不要なもの(免除)』が明確に分かれています。項目ごとに支払いの有無をまとめると以下のとおりです。
- 社会保険料は支払い続ける必要がある
- 雇用保険料は免除される
- 所得税や住民税については非課税となる
ただし、加入している健康保険組合や、受給者の状況により異なる場合があります。以下では、それぞれの詳細とどのような扱いになるのかを説明します。
傷病手当金の受給中でも「社会保険料」は徴収される
傷病手当金を受給中であっても免除されず、支払い続ける社会保険料は以下のとおりです。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料
なお、傷病手当金は非課税所得となるため、所得税や住民税の課税対象とはなりません。ただし、住民税については前年の所得に基づいて計算されるため、現在の収入状況に関わらず納税が必要となる場合があります。
具体的な保険料の金額や支払方法については、加入している全国健康保険協会(協会けんぽ)の各都道府県支部または事業所の担当窓口にご確認ください。
「雇用保険料」は免除される
雇用保険料は、働いている期間に対してのみ徴収されるため、傷病手当を受給しながら休職している期間中に支払わなくても問題ありません。ただし、職場復帰して就労を再開した場合は、通常通り雇用保険料の支払いが必要となります。
出典:国税庁(社会保険料控除)(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1130.htm)
所得税は課税されない
傷病手当金は、法律で定められた非課税所得に該当します。受給額に関わらず所得税は課税されないと健康保険法や地方公務員等共済組合法などで明確に規定されています。
確定申告の際も、傷病手当金として受給した金額を申告する必要はありません。ただし、傷病手当以外の収入がある場合は、通常通り課税対象となります。
出典:国税庁(給与所得)(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1400_qa.htm)
住民税がかからない
傷病手当は非課税所得となっており、住民税の課税対象にもなりません。しかし、住民税は前年の所得に基づいて計算され翌年度に徴収される後払いの仕組みとなっています。
例えば、2024年から傷病手当を受給し始めた場合、2023年を対象としているため住民税の支払いが必要です。一方で、傷病手当の受給が1年を超えて2025年度になると、前年度(2024年)の所得は非課税所得のみとなり、他の課税所得がなければ住民税の支払い義務はなくなります。
出典:全国健康保険協会ホームページ(傷病手当金)(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31710/1950-271/)、国税庁(主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日)(https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu/24200042/noufu_kigen.htm)
「障害年金」は傷病手当受給中でも受け取れる場合も
体の状態が障害年金の等級に該当する場合、傷病手当金と国民年金・厚生年金保険の障害年金を併給できる可能性があります。
本来、障害年金を受給する場合、傷病手当金は原則として打ち切られます。しかし、障害年金の支給額が傷病手当金よりも少ない場合は、差額分が傷病手当金として支給されるのです。
なお、申請には年金請求書や診断書、初診日を証明する書類などが必要となります。
出典:厚生労働省(傷病手当金を受給されている皆様・病気やけがで療養中の皆様へ)(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21070.html)
傷病手当金を受給すると生命保険に入れない?
手当金の受給歴があるからといって、必ずしも生命保険への加入は制限されません。なぜなら、加入診査において傷病手当金の受給の有無が問われないからです。
生命保険に加入する際は、過去の病歴や現在の健康状態について正確に申告する必要があります。また、保険会社によっては、医師による診察が求められる場合もあるでしょう。
例えば、以下のようなケースに該当する方は生命保険に加入できる場合があります。
- 傷病が完治し、一定期間が経過している
- 現在の健康状態に問題がない
- 定期的な通院や投薬をおこなっていない
一方で、次のようなケースに該当する場合は、加入を制限されたり免責期間がつく可能性もあります。
- 病気やケガを現在も治療中
- 定期的な通院が必要な状態
- 症状が完治していない
大切なのは、告知の際に事実を隠さないことです。虚偽の申告をすると、後日発覚した場合に契約が無効になったり、保険金が支払われなくなる可能性があります。
詳しくはこちら:生命保険の審査に落ちる理由とは?落ちた場合の対処法も解説
まとめ
傷病手当は、病気やケガで働けなくなった際の重要な所得保障制度です。支給期間や保障額、受給に際して必要となる添付書類は制度によって異なるため、活用する場合は入念な下調べをおすすめします。
また、支給を受けるためにはいくつかの条件があり、業務外の病気やケガが事由であること、連続した休業日数が必要であるなど、加入する保障制度による取り決めを事前に確認しておきましょう。
社会保険料の支払い義務は傷病手当の受給中も継続されますが、雇用保険料は免除され、所得税・住民税も非課税となります。さらに、障害年金など他の給付との併給が可能な場合もあるため、各種保障制度の決まりや給付額についても調べておくとよいでしょう。
病気やケガは誰にでも起こりうるものであり、突然働けなくなる状況は他人事ではありません。傷病手当制度を理解し、必要な準備を整えておけば、いざという時の経済的な不安は少しでも軽減できます。
自身の状況に合わせて、適切な保障を受けられるよう、早めの情報収集と対策を心がけましょう。
よくある質問(FAQ)
傷病手当は退職後も継続できる?
傷病手当は退職後も継続して受給できます。退職後の受給には、以下の2つを満たすことが条件です。
- 退職日までに傷病手当金の支給を受けている
- 退職時点で療養のため働けない状態が継続している
なお、退職後に新たに傷病手当を申請できず、継続受給の場合も、最長1年6ヶ月という支給期間の制限は変わりません。
申請から受給までの期間は?
傷病手当が支給されるまでの期間は、申請書類の提出からおよそ10日程度かかります。
ただし、以下の場合は診査に時間がかかり、支給までの期間も長くなる可能性があるため注意しましょう。
- 申請書類に不備がある
- 追加の医師の診断を必要とする
- 勤務状況の確認に時間を要する
- 申請が集中している時期
受給をスムーズにするためにも、申請書類は漏れなく正確に記入し、証明書類や添付書類に不備がないかしっかりチェックしましょう。
パートやアルバイトでも受給できる?
傷病手当は雇用形態に関係なく、健康保険や雇用保険に加入していれば受給できます。
ただし、以下の条件を満たす必要があるため、受給については会社の担当部署や窓口に確認を取りましょう。
- 健康保険や雇用保険の被保険者である
- 労働時間や収入が一定以上ある
- 業務外の傷病で働けない状態にある
- 所定の待機期間を経過している
パートやアルバイトの場合、勤務時間や収入によって健康保険の加入対象とならないケースもあります。加入する保険の保障内容は徹底して調べておきましょう。