世界最高水準といわれる日本の公的医療保険制度とその意外な落とし穴

Column

保険の基礎知識
世界最高水準といわれる日本の公的医療保険制度とその意外な落とし穴

「健康保険料って給料から結構引かれているよね?」

『でも、そのおかげでお医者さんにかかっても3割だけ払えばいいんだよ』

「そうか。でも、どんなに高くても3割払うことになっているのかな?」

『あと、治療中働けなかったらどうすればいいんだろう?』

数多くある医療保険商品。ですが、医療保険は決して保険会社が販売しているものばかりではありません。日本の行政が用意している医療保険制度もあるのです。 中でも代表的なものが健康保険ですが、公的医療保険制度は決してそれだけではありません。医療費の一部を負担してくれるもののほか、高額な療養費の負担を軽減してくれるもの、疾病によって仕事ができなくなった場合に支給される給付金など、さまざまなものがあります。上手に活用すればかなり役立つはずなのですが、多くの方々はこうした制度があることをあまり知りません。 ここでは、これら公的医療保険制度の種類とその内容について、解説することにします。 なお、各種の保険について「公的保険制度」あるいは「民間保険」という言い方は一般的ではありません。ただし、ここでは行政各省庁および協同組合等の運営する保険と、各保険会社が販売する保険商品とを区別して説明する必要から、こうした言い分けを行っています。 ⇒医療保険はこう選べ!商品を比較する前に知っておきたい3つのこと

1. 公的医療保険制度を知っておこう

1-1 民間の医療保険に加入する前に

さて、あなたは公的保険制度を、いくつくらいご存じでしょうか? サラリーマンが企業を通して加入する健康保険。自営業の方々には国民健康保険。さらにそれらに付随する介護保険。医療とは少し分野が異なりますが、年金保険も公的保険の一種ですし、地方自治体や農協・漁協などが運営する共済も、公的保険と見なして良いでしょう。 これらの保険制度は怪我や病気のときに、医療費の一部または全部を負担してくれたり、あるいはそれによって仕事ができなくなった場合に、給付金を支給してくれたりします。つまり医療保険そのものとして、あるいはそれに類似したものとして活用できるものがあります。もちろん、そうした使い方をするには一定の条件があり、また手続きも必要になります。ですがそのハードルは比較的低く、多くの人に使いやすいように作られています。 であればまずはこれら公的医療保険制度を活用し、それでカバーしきれない部分や不足してしまう部分を、民間の医療保険で補う……という形をとれば、保険料を無駄にせず、お金を有効に使うこともできます。それにはまず、公的保険制度がどのようなものなのか、どんな種類があってどのような保障が受けられるのかを知ることが大切です。

1-2 公的医療保険制度の種類

ではまず公的医療保険制度にどのような種類があるのかを見てみましょう。 ■健康保険 誰もがご存じの健康保険は企業にお勤めの方が加入するもので、保険料は本人と企業とがそれぞれ負担します。自営業の方や、すでに退職した方は国民健康保険に加入します。その他、公務員や教職員の方が加入する共済組合、船員や海事関連の仕事に従事する方が加入する船員組合なども、保険を運営しています。 いずれも、医療機関での治療費のうち7割を負担してくれますので、本人の負担額は3割となります。就学前の幼児や高齢者ではこの本人負担割合がさらに低くなりますが、そこには自治体による違いもあり、全国一律というわけではありません。 なお、この保険の適用となる治療についてはこと細かに定められており、美容医療など、適用外となる医療行為もありますので注意が必要です。 また健康保険には「医療費の7割を負担する」ということのほかに、さまざまな保障制度が用意されています。これについては、後ほど詳しくお話することにしましょう。 ■介護保険 40歳以上の方が保険料を納め、介護が必要になったときに保障を受けられる制度です。40~64歳までを第2号被保険者、65歳以上を第1号被保険者として分類し、第2号被保険者に対しては特定の疾病により介護が必要になった場合のみ、保障を受けられます(*1)。 ■後期高齢者医療制度 75歳以上の方を対象とした公的医療保険制度です。健康保険制度とは別の、独立した制度ですが、国や地方自治体からの公費と健保・国保等からの支援金、それに加入者からの保険料で運営されています(*2)。 これら公的医療保険制度は加入が義務づけられているものの、保険料は収入によって増減します。高収入の方ともなると大きな額になりますが、それでも上限は決められていますし、逆に収入が一定以下の場合には保険料が減額、あるいは免除される場合もあります。また、年間の医療費が一定額を超えると、税金が減額されるという恩恵もあります。 これらの具体的な数値は法改正によって変わる可能性はありますが、所得の多寡によって保険料を増減するという基本理念は大きく変わることはないでしょう。多くの人々にとって無理の少ない、使いやすい医療保険であるといえます。 公的医療保険制度の種類

1-3 高レベルにある日本の医療保険制度

私たちが安全に、安心して暮らしていくためには、何よりもまず心身の健康が必要です。身も心も健やかで、感染症をはじめとする病気を未然に防ぐことができ、もし病気にかかった時でも、適切な医療を速やかに受けることができる…。そうした体制があってこそ、私たちは安心して日々を生きることができます。 このような考えから、日本では「国民皆保険制度」を採り入れ、すべての国民に公的医療保険制度への加入を義務づけています。 こうした法制度が功を奏してか、今や日本は世界最高レベルの長寿国となり、高い医療水準を誇るまでになりました。そしてこの手厚い公的保険制度は、医療費の一部を負担してくれるだけではなく、私たちの健康を守り、経済的な負担を軽減してくれる、さまざまな保障制度を備えているのです。その具体的な例を、次の項目でお話していきましょう。

2. あなたが知らない、健康保険の保障制度

2-1 健康保険の充実ぶり

あまり知られていないことですが、日本の健康保険制度は、実はかなり充実した保障内容を用意しています。それは高額な医療費がかかった場合に療養費が支給されたり、医療機関の窓口で支払う自己負担額をさらに低く抑えたりと、さまざまな形となって現れています。 その一例を挙げてみると、次のようになります。
  • ・高額療養費制度
  • ・傷病手当金
  • ・海外療養費制度
  • ・子ども医療費助成制度
  • ・出産育児一時金・手当金
あなたはこれらの制度をご存じでしたか? すでに家庭をお持ちの方なら「子ども医療費助成制度」や「出産一時金」などは活用したことがあるかもしれませんね。ですがそれ以外の制度については、まだまだ一般にはあまり知られていないのが現状ではないでしょうか。 これらの制度がどのようなものなのか、どんな保障やサービスが受けられるのか、一つひとつ説明しましょう。

2-2 一定額以上は支払い不要! 高額療養費制度

この制度は端的に言うと、医療費が高額になった場合に限度額を超えた部分を保障してくれる制度です。しかし、これだけではどんな制度なのかよく分かりませんね。もう少し詳しく解説していきましょう。 日本では国民の健康維持と増進のため、国民皆保険制度をとっています。そして世帯収入に応じて保険料を徴収し、それを原資に健康保険を運用しています。この健康保険制度のおかげで私たちの多くは、病院で治療を受けるときに実際にかかった費用の3割を支払うだけで済みます。つまり治療費が1万円であれば、そのうちの3割にあたる3,000円を自己負担金として病院の窓口で支払えば、それで良いのです。 ですが「3割負担」とはいえ、怪我や病気の状況によっては、この自己負担金が非常に大きくなることもあり得ます。 高価な医薬品を大量に使用する必要がある。高額な治療法を使わざるを得ない。こうした状況下では治療費も高額になりますし、たとえ3割の金額といっても、それが経済的に大きな負担となることは十分考えられるでしょう。 「治療は受けたいけれど、これ以上の治療費は出せないし……」 その結果、受けるべき治療を諦めてしまうようなことにもなりかねません。このような事態を避けるために設けられているのが、この「高額療養費制度」なのです。

2-3 限度額以上の医療費を支給

高額療養費は「月初から月末までの1ヶ月間にかかった医療費が、世帯の所得額ごとに計算した上限額を超えたとき、その超えた部分の金額を支給する」というものです(*3)。これは図を見ていただくと良いでしょう。
高額療養費制度利用の場合の自己負担額の例
出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
この例では、ある月の月初から月末までの間に、100万円の医療費がかかりました。健康保険によって自己負担は3割となりますから、病院の窓口で支払う金額は30万円です。そして、この世帯の医療費の上限額は87,430円です。 結果、窓口で支払った30万円と計算によって得られた医療費の上限額87,430円の差額、212,570円が高額療養費として給付されることになります。 健康保険をさらに手厚くカバーする保障として、この高額療養費制度は非常に有益な制度です。複数の病院での治療や、同じ世帯にいる家族が受けた治療を合算することもできます。 申請してから実際に支給されるまでに、3ヶ月ほどの時間がかかるという難点はありますが、当座の医療費支払いのために、無利息の貸付制度が使える場合もあります。 また、年間の医療費が一定の額を超える場合には、その年度の税金が減額される場合もあります。これは税務署の管轄になりますので、お住まいの地域の税務署に問い合わせてみると良いでしょう。

2-4 公的休業補償! 傷病手当金

怪我や病気のために仕事ができなくなってしまった…。一家の大黒柱にとっては大きなピンチです。その怪我や病気が業務上のものであれば労災保険が使えるかもしれませんが、そうでなければ自己責任。自分でなんとかするしかありません。 こんな時に役立ってくれるのが、健康保険の傷病手当金(*4)。仕事ができず、給与を得られなかったときに活用できる公的な休業補償、あるいは所得保障と言えるものです。 この傷病手当金を受け取るには、次のような条件があります。
  • 業務外の事由による怪我や病気であること
  • 仕事ができない状態であること
  • 連続して3日間、合計して4日以上、仕事につけなかったこと
  • 休業期間中、給与の支払いがなかったこと
少し解説を加えておきましょう。 まず通勤時間を含め仕事中、あるいは業務上の怪我や病気は労災保険の適用対象になりますので、この制度は使えません。また「仕事ができない状態」にあるかどうかは、医師の意見や、本人の状態と仕事の内容を勘案しながら判断されます。 仕事を休んだ期間のうち「連続して3日間」というのは、民間の保険でいう「免責期間」と似たようなもので、この期間に対しての給付金は支払われません。また連続3日間休むことを「待期完成」と言い、それを超えて4日目以上の休業に対して給付金が支払われます。なお、待期完成の3日間には有給休暇や公休日が入っていてもかまいません。 また休業期間に給与の支払いを受けていると、原則として傷病手当金は給付されません。けれど給与の額が傷病手当金の日額よりも低い場合には、その差額分が支給されます。なお、この制度は企業にお勤めの「健康保険」加入者のみが対象になりますので、すでに退職した方や自営業の方など、国民健康保険の加入者は対象外となります。 なお、傷病手当金は1日単位で計算され、支給されます。その額は「標準報酬日額の2/3」とされています。ちなみに標準報酬日額とは、単に「月給を日割りにしたもの」ではありません。これは健康保険に特有のもので、決められた条件のもとで計算式によって算出される数字です。 また、支給期間は、支給が始まった日から通算して1年6ヶ月に達する日までです。支給期間中に途中で就労するなど、傷病手当金が支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6ヶ月を超えても繰り越して支給可能になります。 ただし、これらの条件を満たしていても、厚生障害年金障害手当金の支給を受けていたり、老齢年金を受けていたりすると、それに合わせて傷病手当金の額も調整される仕組みになっています。 また女性の場合、出産のために仕事を休むときには出産手当金が支給されますが、傷病手当金と同時に受け取ることはできず、出産手当金が優先されます。ただし、傷病手当金の金額が出産手当金の金額を上回っている場合、その差額分は支給されることとなります。

2-5 まだある、使える公的保険制度

これらの制度のほか、もしもの時に使える公的保険制度はあります。先に挙げたいくつかについて、少しだけお話しておきましょう。 ■海外療養費制度 旅行やビジネスで海外に出向いたとき、怪我や急病のために現地で治療を受けた場合、かかった医療費の一部が給付される制度です(*5)。 対象となるのは日本国内で保険診療として認められている医療行為に限られますが、同じ行為を日本での保険点数に換算したうえで、その7割までを給付してくれます。つまり「海外で受けた治療を日本で行った場合に置き換え、その医療費の7割を保険で保障する」というわけです。入院などで医療費がかさんだ場合には、先にお話した高額療養費からの払い戻しを受けることもできます。 この制度を利用するには、まず海外の病院で支払いを済ませたうえで、治療内容の証明書や支払った医療費の明細を受けとり、さらに書類を整える手間がかかります。そうした煩雑さはありますが、海外出張が多い方などは、覚えておいて損はない制度です。 ■子ども医療費助成制度 一般の健康保険に加えて、子どもたちを対象とした医療費助成制度の総称です。 一般に、健康保険では就学前の子どもの自己負担は2割、小学校に入ると大人と同様の3割負担となります。ですが乳幼児はちょっとしたことで熱を出したり、元気に走り回って怪我をしたりと、病院のお世話になることが多いものです。そこで子育て支援の一環として、自治体ごとにこうした制度を設け、子どもたちの医療費を公費で助成しています。 対象年齢や助成額については自治体によって差があり、中には「18歳まで自己負担なし」というところもあります。住んでいる自治体についても調べてみるといいでしょう。 ■出産育児一時金・手当金 妊娠・出産に関する検査や分娩費用には、健康保険が適用されません。そのため出産費用はすべて持ち出しとなってしまいますが、それに対して支給されるのが出産育児一時金出産手当金です。 出産育児一時金は、出産にかかる費用を補填するもので、1児について42万円(産科医療補償制度に加入していない医療機関で出産した場合は39万円 ※平成27年以降の出産は40.4万円)が支給されます(*6)。また、出産の前後に産休を取ったために給与の支払いがなかった場合には、その期間を対象として出産手当金を受け取ることができます(*7)。 これらの制度を利用するには自己申告が必要ですが、細かな制限や条件が課せられていることもありますし、それらの条件が法改正によって変わることもあります。ですから、まずは加入している保険組合・共済、あるいは自治体の国民健康保険課などに問い合わせ、手続きの仕方や必要な書類などについて、確認しておくと良いでしょう。 ⇒医療保険はこう選べ!商品を比較する前に知っておきたい3つのこと

まとめ:公的保険制度の穴は民間保険でカバーする

このように、日本の公的保険制度はいくつもの保障が設定されており、その内容はかなり充実したものです。医療費そのものに関していえば公的保険制度で十分に事足りるレベルですので、あえてそれ以上の保障を民間保険でかける必要はあまりないようにも思えます。 ですから医療保険への加入を考えるときには、まず公的保険制度でどこまでカバーできるのかを見きわめ、それでも足りない部分を民間の保険商品で補う…という視点を持つと良いでしょう。 一般的には、まず怪我や病気の治療のための保障は、公的保険制度で対応する。そして長期の入院を余儀なくされたり、仕事ができずに収入が途絶えたりしたときのために、必要な保障を民間保険で用意しておく。こうした役割分担をしておけば、たいていのトラブルには対応できるはずです。 多くの人々にとって、公的保険制度というのはあまり馴染みのないものでしょう。身近なものといえば健康保険や国民年金程度でしょうし、その健康保険にしても「自己負担3割」くらいの認識しかないのが一般的だと思われます。 ですがここまで見てきたように、公的保険制度にはとても魅力的で、実用的な保障の数々が用意されています。これを活用しない手はありません。別の記事でもお話していますが、保険商品を選ぶときには「自分に何が必要なのか」という視点を持つようにすることが重要です。それと同様に「すでに何が用意されているのか」を知ることもまた重要なことです。 充実した公的保険を活用し、そのうえで何が不足しているのか、何が自分にとって必要なのか。その見きわめは、あなた一人では難しいかもしれません。 そんな時こそ保険の専門家のアドバイスを受けながら、本当に必要なものは何かを見きわめるように心がけてください。「保険見直し本舗」でも無料保険相談を承っています。ぜひお気軽にご相談ください。