がん保険最新事情~“死の克服”から“生の充実”へ~

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保険の基礎知識
がん保険最新事情~“死の克服”から“生の充実”へ~

たとえば、芸能人の訃報や最新の医療技術を特集したドキュメンタリー番組、保険会社のコマーシャルで、日常的に私たちはがんをめぐるトピックを目にしています。

なぜ、多くの病気のなかで、がんだけがこれほどまでに私たちの関心を引きつけてやまないのでしょうか。恐らくそれは1981年以降、今なおがんが日本人の死因のうち最も多い割合を占めつづけていること(*1)と無関係ではありません。私たちにとって、がんはいつ自分の人生を脅かすともしれない病魔なのです。それゆえに、私たちは常にがんから目をそらすことができずにいるのでしょう。

がん保険は、そのようながんに対する恐怖と不安から生まれました。

現在のがん保険には、がんをめぐる様々なリスクに対応できるよう多くの保障が備わっています。たとえば、入院や通院をした場合はもちろん、「手術(外科治療)」、「化学療法(抗がん剤治療)」、「放射線治療」等のいわゆる三大治療や、最新の技術を用いた先進医療についても個別にカバーしています。また、それに加えてがん患者やその家族の精神的な負担をケアするためのサポートサービスも付帯されています。

しかし、何もがん保険は初めからこのような保障内容であったわけではありません。がんをめぐる医療環境の進展を背景とした試行錯誤の末に、ようやく現在の形に整えられたのです。あるいは、医療保険や死亡保険をはじめとした数ある生命保険のなかで、がん保険ほど大きな変化を遂げてきたものは他にないとさえ言えるかもしれません。

そこでこの記事では、1970年代から2018年現在にいたるまでの期間を大きく3つに区分し、がん保険が医療環境の変化に対応しながら、どのような軌跡を辿ってきたのかを見ていきたいと思います。少し具体的に予告しておくと、それぞれの期間について、①背景としてのがんの医療環境、②それを受けたがん保険の変化を解説していきます。

この記事に最後まで目を通していただければ、がんの医療環境とがん保険が歩んできた足跡について、おおよそのイメージが得られるはずです。

1.1970年代-1980年代 ~“死に至る病”としてのがん~

1-1. 1970年代-1980年代のがんをめぐる医療環境

「がん」という言葉には、「死」のイメージが濃厚にまとわりついています。しかし現在、そのイメージは必ずしも正確に実態を捉えているとは言えません。後に詳しく述べるように、がん治療の技術進歩は目覚しく、今では多くの有効な治療法や予防法が確立され、その普及が進められています。すでにがんは必ずしも“死に至る病”ではなくなったと言えるでしょう(*2)。

しかし、1970年代-1980年代のがん治療・予防技術は、ともに十分に発展しているとは言い難い状況でした。当時のがんの治療といえば、ほとんど手術療法しか選択肢がなく、抗がん剤治療や放射線治療の一般化・実用化は、まだしばらく時を待たなければなりません。

また、緩和ケアをはじめとしたがん治療にともなう患者や、その家族の心理的な負担を細やかに気遣う社会的なバックアップの仕組みも、今ほど体系化されていませんでした。がんに罹ったら苦しい闘病生活しか残されていない。当時の人々にとって、がんはそのような死に至る病としてリアルに体感されていたことが想像できます。

ここで、がんを巡る興味深いデータについても簡単に触れておきましょう。

主な死因別にみた死亡率の年次推移

上記の調査(*1)によれば1981年、がんが日本人の死因第1位を占めるようになりました。このときを境に、がんはそれまでトップだった脳血管疾患を超えて、現在まで日本人の死因1位に留まり続けることになります。こうした統計的なデータもまた、がんに死のイメージを定着させた要因の1つに数えられるのではないでしょうか。

1-2. 1970年代-1980年代のがん保険

1970年代-1980年代にかけて、がんが死に至る病のイメージを伴っていたことは、すでに述べた通りです。

それでは、当時のがん保険は、そのようながんの状況に対して、どういった保障で対応していたのでしょうか。

当時のがん保険は、入院給付金や在宅療養給付金といった、治療に関する保障がベースとなっていました。しかし、三大治療などの今では主流になっている治療に対する保障は、まだ十分に備えていませんでした。また、商品によっては、現在はあまり見られませんが、死亡保障が付いているタイプも存在していました。

2.1990年代-2000年代 ~がん治療の“多様化”と“高度化”~

2-1. 1990年代-2000年代のがんをめぐる背景

がんをめぐる医療環境の流れでいえば、1990年代-2000年代は、がん治療が飛躍的な進展を遂げながら多様化・高度化した時期にあたると位置づけることができます。

この時期、がん治療は手術療法のほかに、抗がん剤治療、放射線療法などもより活発に行われるようになっていきます。これら「三大治療」の普及により、がんをめぐる医療環境には、①がんの5年生存率の向上(*3)、②がん治療形態の外来(通院)化(*4)という2つの大きな波が訪れました。

がんの生存率 がんの外来治療率と入院治療率

また、2000年代初頭から半ばには、最先端の技術を用いた粒子線治療(陽子線治療、重粒子線治療など)が、多くの治療実績から高度先進医療(現「先進医療」)として厚生労働大臣に認められました(*5)。粒子線治療は高額な医療機器や大規模な施設が必要となるため実施可能な医療機関の数は今なお限られていますが、いずれにせよがん治療が多様に展開していったことは確かだと言えるでしょう。

2-2. 1990年代-2000年代のがん保険

そのようながん治療の技術的な進歩を受けて、各保険会社はがん保険の保障内容を大きく変革し、がん治療に係わる保障を拡充する方向へ舵を切ります。

まず、従来のがん保険の保障はそのままに、診断一時金や通院給付金などが新たな保障として加わりました。続いて、三大治療や先進医療といった新たな医療環境に対応するために、放射線治療給付金、抗がん剤治療給付金、先進医療給付金などの保障を備えるにいたりました。

診断一時金の支給条件にも徐々に変化が見られるようになります。もともと上皮内新生物は保障対象外とするタイプが多かったのですが、やがて給付金を受け取れるタイプも登場してきます。その逆に死亡保障については、コンパクトに留めるか、もしくは特約として付帯の有無を選択できるようになり、急速に存在感が薄まりました。

細部に小さな違いが認められるとはいえ、基本的な保障内容としてはほとんど現在のがん保険と変わりありません。おおよそこの時期に現在に連なるがん保険の原型が整えられたと見ることができるでしょう。

3.2010年以降 ~“死の克服”から“生の充実”へ~

3-1. 2010年以降のがんをめぐる医療環境

2010年代以降のがんをめぐる環境においては、がん治療そのものだけではなく、がん治療に臨む患者やその家族の「生活」についても繊細な配慮が払われるべきだとする気運が高まりました。別の言い方をすれば、がんを治療することと同時に、いかにしてがんに罹った人々の生活の質(=QOL)を高めるかという問題が重要なものとして社会に認知され始めたと言うこともできます。

これまで述べてきたように、がん治療の技術については日々進歩を遂げており、それらの成果としてがんの死亡率や生存率の改善は大いに進んでいます。今なおがんの完全な克服には及んでいないまでも、すでに死に至る病としてのがんというイメージは遠く過去のものとされつつあります。

こうしたがん治療の進歩は、がんで悩みを抱えた患者やその家族一人ひとりの個別具体的な “生” に、きめ細やかに寄り添うアプローチを推し進める素地を準備しました。 それらの試みは多岐に渡りますが、大きな動きとしては「がん診断時からの緩和ケア」(*6)や「がん治療と職業生活の両立への支援」(*7)などの取り組みが挙げられるでしょう。

まず「緩和ケア」とは、がん治療に際して患者やその家族の身体的・心理的な苦痛を和らげ、より豊かで充実した人生を送れるよう支援するケアのアプローチだと言えます。

それまでの緩和ケアは、主にがんの終末期において残りわずかな時間を心穏やかに過ごせるよう行われるものというイメージが一般的でした。しかし、がん患者やその家族の心理的なストレスは、何も終末期にのみ生じるわけではありません。がん告知に対する心の整理から、治療に関する選択、治療費の準備、疾病による身体への影響、完治後の就労の問題に及ぶまで、がんに係わるあらゆる局面で患者やその家族は精神的な苦痛を迫られることでしょう。そのような問題意識のもと、緩和ケアは、がんの終末期だけではなく、がん治療全体の各プロセスにわたって包括的に行われるべきだとされるようになっていきます。

次に「がん治療と職業生活の両立への支援」は、「いかにがん治療をしながら仕事を続けられる環境を整えるか」という問いから始まった試みです。

がんの治療法の進歩にともない、仕事をしながらでもがん治療に取り組める好ましい状況が生まれました。しかしながら、その一方でがんの治療や経過観察は長期化する傾向があることから、必ずしも治療と仕事の両立は十分に実現されていませんでした。そのような現状を受けて、一部の企業では意識啓発を目的とした研修の実施や、新たな休暇・勤務制度の導入によって、治療と仕事の両立への積極的な支援を講じる例も見られるようになります。

このように2010年代以降、がんをめぐる医療環境は、がん治療の技術発展と生存率の改善を背景に、“死の克服”から“生の充実”へと大きく重心を移しつつあると言えるのではないでしょうか。

3-2. 2010年代以降のがん保険

先述したとおり、2010年代以降のがんをめぐる医療環境の流れは、“死の克服”から“生の充実”へとさしあたり整理することができそうです。もちろん、今もがん治療に関する弛まぬ研究成果の着実な蓄積が進められています。ポイントは、それと同時に、より微視的な観点からがん患者やその家族の身体・精神にも気遣う風土が形作られていることでしょう。

そのようながんの医療環境の進化に伴い、がん保険もまたがん治療に関わる保障のマイナーチェンジや、保障以外の付帯サービスの搭載といった新たな局面を迎えます。

まず保障のマイナーチェンジとしては、診断一時金の支払いが①複数回/無制限(2年に1度を限度)、②上皮内新生物も悪性新生物(がん)と同額保障となった商品が多く認められるようになったことが挙げられます。複数回/無制限はがん患者の生存率が高まったことによる再発・転移に、上皮内新生物の同額保障は予防医学の発展によるがん発見の早期化に、それぞれ対応しているものと思われます。

また、保障以外の部分としては、多くのがん保険に付帯サービスが付加されたことが注目に値します。

付帯サービスは、がんに罹ったときに治療に係わる実務的・精神的なサポートを行うサービスだということができます。先ほど確認してきたように、重い病気を抱えた本人やその家族は、治療方法の選択や経済的負担、あるいは完治後の生活状況など、様々な問題に対する大きな不安に思い悩みます。がん保険の付帯サービスが担っている役割は、そうした不安や苦痛を少しでも緩和するためのサポートです。

具体的な付帯サービス内容の一例をあげると、日常生活の中での健康に関する不安について相談できる「健康相談ダイヤル」、病気になったときにかかりつけの医師以外からの専門的な意見を仰げる「セカンドオピニオンサービス」、検診や受診の医療機関の手配・予約を代行してくれる「受診・検診手配紹介サービス」などが備わっています。

がん保険はこのような付帯サービスを携え、がん治療だけではなく、それにともない発生するがん患者やその家族の心理的なケアにも積極的に乗り出したと言えるでしょう。

まとめ:がん保険は時代に合わせて定期的な見直しを!

いかがでしょうか。

ここまで各時代のがんをめぐる医療環境に応じて、どのようにがん保険の保障内容が変わってきたのかを急ぎ足で概観してきました。

生命保険にはがん保険以外にも数多くの種類がありますが、これほどまでに大きな保障内容の変化を経験してきた保険はほかにないでしょう。その理由は、がんに対しては多くの国費が投じられ、発生メカニズム、発生要因、予防医学、治療方法などの解明が促進されてきたことに起因しています。そのようながんをめぐる医療環境と並走して、がん保険が保障内容の逐次改定による対応を図ってきた姿を見てきました。それを図式的にまとめれば、次の表のようになります。

がん保険の保障内容

それでは私たちは、このように移り変わりの激しいがん保険と、どのように付き合っていけば良いのでしょうか。

注意したいのは、がん保険を遥か昔に加入したまま放置していて、「いざというときに保障を受けられなかった」という事態に陥ってしまうことです。今なおがん保険は進化の歩調を緩める様子は見られません。私たちは、定期的にがんの医療環境の最新動向をキャッチアップし、いざというときに今のがん保険で問題なく対応できるかどうか吟味することを疎かにしてはならないと言えるでしょう。

しかしながら、がんに関する専門的な知見を自分ひとりで集め、それらと照らし合わせてすでに加入しているがん保険について正確な判断をするのは多大な時間と労力を払わなければならず、とても難しいことでしょう。恐らく納得のいく結論を導きだすことも難しく、途方に暮れる方も多いかもしれません。

そのようなときには、保険のプロの声に耳を傾けてみるのも1つの方法です。豊富な知識と経験をもとに、アナタの保険の問題点を整理し、それに合わせて的確な提案を聞かせてくれるかもしれません。

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すでにある程度の保険の知識を持っていて、徹底して自分の頭で考えたいという場合、がん保険の種類や選び方などをテーマにした記事に目を通してみるのも良いかもしれません。これらを読み進めていくことにより、がん保険を選んでいくうえでの基準がより明確になっていくはずです。

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