正しく知りたい 公的年金制度の強みと弱み

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公的制度
正しく知りたい 公的年金制度の強みと弱み

老後について考えた時、「毎月の収入はいくらぐらいになるんだろう?」というのは最も気になる問題ではないでしょうか。第一に老後の生活の頼りとなるのは、若い時に保険料を支払ってきた年金です。

しかしこの年金、会社員・公務員なら毎月給料から天引き、自営業なら毎月自分で保険料を納める身近な存在であるにもかかわらず、その制度は非常に複雑……。「何だかよくわからない」と思っている人、何だかよく分からないからこそ、漠然とした不安を抱えている人も多いのではないかと思います。

将来、年金の受け取りで損をしないためにも、老後に対する漠然とした不安を払拭するためにも、公的年金制度について知っておくことは非常に有用ですし、これから社会に出る場合にも必ず役に立つことでもあります。

そこでここでは、公的年金制度の全体像とその特徴について、分かりやすくお話していきます。

1. 年金制度の基礎知識

1-1 公的年金制度とは?

公的年金制度とはその名前から分かる通り、国が管理・運営している年金制度のことです。公的年金制度は次の2種類に分けることができます。

  • ・国民年金…日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入するもの。
  • ・厚生年金…民間企業の会社員や公務員など、どこかに勤務している人が加入するもの。

このうち国民年金は全員が加入するものですから、当然民間企業の会社員や公務員も加入しています。厚生年金の加入者は、国民年金と厚生年金の2つに加入しているということになります。

年金制度の全体図

ちなみに2015年9月30日以前は、公務員や私立学校の教職員は厚生年金ではなく、「共済年金」という年金に加入していました。公的年金は国民年金と厚生年金、それに共済年金と全部で3種類あったわけです。しかし2015年10月1日に共済年金は厚生年金と一体化したため、現在は2種類になっています。

運営方式は、若い時に自分が積み立てた分を将来自分で受け取る「積み立て方式」ではなく、現役世代が納めた保険料を現在の受給者への支払いに充てる「賦課(ふか)方式」が採用されています。少子高齢化の下では現役世代の負担増大が懸念される一方、インフレや給与水準の変化に対応しやすいというメリットがある方式です。

1-2 公的年金制度の存在理由~社会のセーフティネット

公的年金制度の概略が分かったところで、そもそも国にはなぜ、「公的年金制度」という制度があるのかについても触れておきたいと思います。

「年金」と聞くと、「年を取って働けなくなった時のためのもの」といったイメージを持ちやすいですが、人生において働けなくなるリスクは加齢ばかりではありません。病気や事故で障害を負って働けなくなる、一家の大黒柱が亡くなってしまう、などは誰にでも起こりうることですし、また老後の生活費として貯金を用意していても、思わぬ病気や想定以上の長寿で貯金を使い果たしてしまうことだって考えられます。

そういう予測できない将来のリスクに対して社会全体で予め備え、誰もが安心して暮らせる社会を作るために、公的年金制度というセーフティネットが存在しているわけです。

1-3 公的年金制度の中身~基本は老齢・障害・遺族年金

公的年金で受給できる年金にはおおよそ次のようなものがあります。受給するには、それぞれの年金ごとの支払い要件をすべて満たした上で、受給の申請をすることが必要です。

●基本的なもの
・老齢年金…年を取って仕事をリタイアした後に支払われる年金。基本的に受給開始年齢は国民年金の場合は65歳。厚生年金の場合は生まれ年などにより変動するが、将来的には65歳に統合される予定。繰り上げ、繰り下げ受給の仕組みもあります。

  • ・障害年金…病気や事故などで障害を負い、働くことや日常生活を送る上で困難がある人に支払われる年金。
  • ・遺族年金…一家の働き手や年金を受け取っている人が亡くなった時に、その遺族に対して支払われる年金。

●対象が限定されるもの
・付加年金…月々の保険料を400円余計に払うことで、将来受け取れる老齢年金の額を増やす制度。400円を追加で納めた月数×200円が老齢年金の受給額に毎年加算される。利用できるのは自営業者やフリーターなど「国民年金の第1号被保険者」と、国民年金の任意加入被保険者(65歳以上を除く)のみ。

  • ・寡婦年金…夫を失くした妻に支払われる年金。ただし「国民年金の第1号被保険者」として10年以上の保険料納付期間(免除期間を含む)がある夫と10年以上継続して婚姻関係にあり、生計を維持してきた者の妻であることが要件。
  • ・死亡一時金…「国民年金の第1号被保険者」として保険料を36カ月以上納めた人が、老齢年金・障害年金を受け取らずに亡くなった場合、亡くなった人と生計を同じくしていた遺族に対して支払われるお金。

1-4 公的年金がカバーするリスクの範囲

年金の種類が出そろったところで、主なものについてカバーできるリスクを見ていきたいと思います。

●老齢年金
老齢年金の特徴は、まず受給開始から死ぬまで給付が受けられること、それからインフレなどでも資産が目減りせず、社会の変化に強いことで、長寿とインフレのリスクをカバーしてくれます。受け取れる金額は国民年金のみの場合、40年間保険料全額を納めていれば年間77万7,800円(*1)で、厚生年金に加入している場合、2020年度の平均額は年間約175万円(*2)となっています。

●障害年金
受給には保険料の納付状況などの条件はありますが、それまでに払った保険料に関係なく、障害の度合い(等級)に応じた年金が支給されるのが特徴で、万が一障害を負ってしまった時の経済リスクをカバーしてくれます。参考までに2級の場合、国民年金のみなら受け取れる金額は年間77万7,800円+子ども分(*3)、厚生年金に加入している場合には2020年度の平均(全等級の平均)額は年間約123万円(*2)です。

●遺族年金
障害年金と同じく、それまでに払った保険料に関係なく、条件を満たせば年金を受け取ることができる遺族年金は、万が一、大黒柱を失ってしまった時などの経済リスクをカバーしてくれるものです。金額は、国民年金のみなら受け取れる金額は年間77万7,800円+子ども分(*4)、厚生年金に加入している場合の2020年度の平均額は年間約100万円(*2)です。

2. みんなが入る基礎年金「国民年金」

2-1 国民年金とは?

年金の全体像がなんとなく分かったところで、今度はもう少し詳しくその内容を見ていきましょう。

日本の年金制度はよく建物に例えられますが、その1階部分に当たるのが、日本に暮らす20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金」です。年金制度の基礎に当たるもので、これに加入することで、老齢・障害・死亡によりそれぞれ「老齢基礎年金」「障害基礎年金」「遺族基礎年金」を受けることができます。

2-2 国民年金の仕組み

国民年金に加入している人は「被保険者」と呼ばれ、働き方や立場などで3つのタイプに分けられており、タイプごとに保険料の納め方が異なります。

ちなみに、先ほど付加年金や寡婦年金などの申請条件の項目で登場した「第1号被保険者」はこのタイプの一種です。

●第1号被保険者
自営業者、農業者、学生、フリーター、無職など、第2号被保険者・第3号被保険者以外のすべての人がこれに当たります。保険料は、納付書による納付や口座振替などによって自分で納めます。まとめて前払いをすると保険料が少し割り引かれます。

●第2号被保険者
会社員や公務員など、厚生年金にも加入している人たちです。国民年金の保険料は厚生年金の保険料に含まれているので、厚生年金に加入すると自動的に国民年金にも加入することになります(65歳以上で老齢年金を受ける人を除く)。保険料は毎月の給料から天引きされ、自分で払う必要はありません。保険料の半額は会社が支払ってくれます。

●第3号被保険者
第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者、簡単に言うと会社員の妻(または夫)で扶養家族になっている(原則年収130万円未満)人がこれに当たります。保険料は扶養している方が負担するので、自分で払う必要はありません。夫婦共稼ぎで共に年収130万円以上の場合は第3号被保険者でなくなります。

2-3 国民年金に加入するメリット

「国民年金に入っていても将来もらえる年金は少ないし。あんまり意味がないんじゃ…」と思ったことがある人もいるのではないでしょうか。しかしこれまでお話してきたように、国民年金がカバーするリスクは加齢が原因のものだけではありません。

特に会社というセーフティネットを持たない自営業者や家族で商店を営んでいるような場合、自分自身が働けなくなったり、一家の大黒柱を失ったりすることは経済的な困窮状態にも直結します。そんな時に障害基礎年金や遺族基礎年金などが受け取れる国民年金は、非常に重要な意味があると言えるでしょう。

また老齢年金については、付加年金を利用したり、国民年金に上乗せしたりする「国民年金基金」という制度に加入することで、将来の受給金額を増やせる道もあります。

注意したいのは、障害基礎年金や遺族基礎年金を受け取るには保険料納付要件を満たす必要があることです。

例えば障害基礎年金の場合、直近の1年間に未納がなく、年金加入期間の3分の2以上は保険料を納付または免除されている必要があります。「将来受け取れる額も小さそうだから」と保険料を払わないでいる期間が長いと、いざ障害基礎年金や遺族年金が必要になった時に受給できない可能性があるわけです。

とはいえ、特に学生や開業したばかりの自営業者、失業して転職活動中の身などでは、毎月の保険料を支払うのが苦しいことも珍しくはありません。

保険料の納付が難しい場合は、

  • ・在学中は保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」
  • ・1年間一部または全額の保険料納付が免除される「失業による特例免除」
  • ・所得が少ない場合に保険料納付が猶予・免除される「保険料免除・猶予納付制度」

などが利用できます。猶予された分は未納にはならず、また後から追納することで年金額を増やすこともできるので、今払えなくても放っておかずに、これらの制度を積極的に利用するのがおすすめです。

3. 基礎年金の上に乗っかった「厚生年金」

3-1 厚生年金とは?

「国民年金」の次はもう1つの公的年金、「厚生年金」を見ていきたいと思います。

民間企業の会社員や公務員など、どこかに勤めて働く人たちが入る年金「厚生年金」は、基礎年金である国民年金に上乗せされた、いわば2階部分にあたるものです。これに加入していることで、老齢・障害・死亡によりそれぞれ「老齢厚生年金」「障害厚生年金」「遺族厚生年金」を受けることができます。

年金制度の全体図

なお、企業によっては、2階部分の上にさらに3階部分として「企業年金」を設けているところもあります。これは公的年金ではなく、企業の私的な年金制度です。

3-2 加入できるかは勤務先次第

全員加入の国民年金はもちろんですが、厚生年金についても個人で加入する/しないを決められるわけではありません。

勤め先の企業・団体が厚生年金に加入していれば、そこで常時雇用される70歳未満の人は自動的に厚生年金に加入することになります。常時雇用とは正社員だけに限らず、パートタイマーでも1週の労働時間および1カ月の労働日数が一般社員の4分の3以上である場合などは常時雇用と認められ、被保険者となるのが原則です。

また、一般社員の所定労働時間および所定労働日数の4分の3未満であっても、以下の要件をすべて満たす方は被保険者になります。

  • 1.週の所定労働時間が20時間以上あること
  • 2.雇用期間が1年(令和4年10月以降は2カ月)以上見込まれること
  • 3.賃金の月額が8.8万円以上であること
  • 4.学生でないこと
  • 5.常時501人(令和4年10月以降は101人)以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること

厚生年金の保険料は給料から天引きされるので、自分で払う必要はありません。なお、産前産後休業期間、育児休業等期間中の保険料は免除となり、年金計算の際には保険料を納めた期間として扱われます。

3-3 厚生年金のほうがお得? ~国民年金との違い~

厚生年金には以下のような国民年金との違いがあります。

●保険料は会社と折半
国民年金の第1号被保険者は全額自腹で保険料を支払うのに対し、厚生年金は会社が半分払ってくれます。

●報酬に連動して保険料が変わる
国民年金の保険料は収入にかかわらず一律で、2022年度は月1万6,590円(*5)。収入の低い人ほど大きな負担になります。対して、厚生年金の保険料は報酬と連動して変化するので払いやすくなっているといえます。ちなみに被保険者負担分の保険料の一例を挙げると、月収が18万円の場合で1万6,470円、30万円の場合で2万7,450円です(*6)。

●受け取る年金額が多い
厚生年金は国民年金に上乗せされたものなので、その分受け取れる年金の額は国民年金より多くなります。加入期間や収入によりますが、老齢年金の場合、国民年金のみで40年間保険料全額を納めた場合の受取額が年間77万7,800円(*1)なのに対し、厚生年金加入者の平均受取額は年間約175万円(*2)となっています。

●最低加入期間が異なる
国民年金では、老齢年金の受給には10年(2017年3月以前は25年)の最低加入期間を満たす必要があります。厚生年金の場合は、国民年金の支給要件を満たしたうえで被保険者期間が1カ月以上あれば老齢年金を受給できます(受給時に65歳未満の場合は1年以上の被保険者期間が必要)。

4. 2015年秋に姿を消した制度「共済年金」

4-1 共済年金とは?

最後に、2015年9月まで存在した制度「共済年金」のことにも簡単に触れておきたいと思います。

「共済年金」は国家公務員や地方公務員、私立学校の教員などとして常時勤務する人が加入するもので、いわば厚生年金の公務員版として独自の保険料率や給付内容を定めていました。その後、年金制度の安定と公平の確保を目的とした改革が進められ、被用者年金一元化法(*7)により、2015年10月1日に厚生年金に統一されました。

4-2 統一によって変わったことは?

統一により次のような変化が起こりました。

  • ・国家公務員、地方公務員も厚生年金の被保険者になった
  • ・保険料が厚生年金の保険料と統一、給付内容も基本的に厚生年金に揃えられた
  • ・一般企業の「企業年金」に当たる年金の3階部分「職域部分」が廃止。新しく「年金払い退職給付」が設けられた

4-3 新設の「年金払い退職給付」とは?

従来の「職域部分」は、現役世代が払う掛け金を現在の給付支給にあてる賦課方式で、一生受け取れる終身年金でしたが、「年金払い退職給付」制度は次のようになっています。

  • ・年金の半分は一時金、10年支給、20年支給から選べる有期年金、もう半分は一生受け取れる終身年金
  • ・原則65歳から支給する(繰り上げは可能)
  • ・年金の受取期間中に本人が死亡した場合、終身年金部分は終了。有期年金の残りの部分は遺族に一時金として支払われる
  • ・公務に関する負傷や病気で障害、死亡が起こった時には、公務上障害・遺族年金が支払われる
  • ・財源は自分が将来受け取る年金の原資を現役時に自分で積み立てる「積み立て方式」

まとめ:公的年金制度をベースに必要に合わせてカスタマイズを

ここでは、

  • ・公的年金は「国民年金」と「厚生年金」で構成されること
  • ・積み立てではなく、賦課方式で運営されていること
  • ・公的年金は加齢により働けなくなった時だけでなく、障害、死亡に対する備えにもなっていること
  • ・「国民年金」は全員が加入する年金制度の1階部分であること
  • ・未納期間が長いと「障害基礎年金」や「遺族基礎年金」を受け取れなくなるリスクがあること
  • ・「厚生年金」は制度の2階部分にあたり、国民年金とは違う特徴があること
  • ・公務員が加入した「共済年金」はなくなり、「厚生年金」に統一されたこと

などについてお話しました。

公的年金は基本的に老齢・障害・死亡など、人生のリスクに備えるセーフティネット。不測の事態が起こった時に生涯年金の支給が受けられるというのは大きなメリットになりますが、金額的にはそれだけで十分とは言えませんし、医療費の増加など、フォローできないリスクもあります。

そういう弱みを補って強みを生かすためには、例えば、さらに老後の年金を増やしたい時には個人で加入できる確定拠出年金や保険会社が扱う個人年金保険、医療リスクをカバーしたい時にはがん保険や女性保険など、ほかの方法と組み合わせることで必要なリスクヘッジをしていくことが考えられます。そうすることで、老後に対する漠然とした不安も晴れていくのではないでしょうか。

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